2022年5月1日、本研究の対象であるオンライン取引における場の提供者の責任状況の明確化に資する、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法が施行された。同法は、取引DPF提供者が約款に基づく利用停止等による権利侵害防止や行政法規に基づき販売業者等が負う責任の補完が企図されている。そして、同法が定める内閣総理大臣による利用停止等の要請、販売業者等情報の開示請求権はDPF利用契約上の権利義務関係を考える上での素材となる。さらに、提供者が取引適正化・紛争解決に関して措置を講じる努力義務、官民協議会、申し出制度などの自主的取組促進により、民事上の取引上の社会通念・信義則の前提更新が期待される。 そこで取引DPF利用契約の性質について考察することとし、同契約の特性(複合契約、情報蓄積によるDPF提供者の支配的地位、安全性への信頼、継続性等)及び利用停止等に係る裁判例と取引DPF消費者保護法の関係を検討することで、民事上の義務を析出した(「取引DPFと消費者保護」『先端消費者法問題研究 第3巻』所収、2023年発刊予定)。 2017年改正民法では、取引上の社会通念または信義則を考慮した契約解釈がなされることが確認され、それにより同種・規模のDPF提供者に期待される利用環境整備が義務設定されうること、他方で利用停止等に際しての調査義務等を取引DPF提供者が販売業者等に負うなどの構造が見られ、行政法規である取引DPF消費者保護法を超えた民事上の責任が発生しうると考えられた。 すなわち取引DPFにおいては、情報蓄積により必要とされる措置が導かれ、措置を講じるため、契約(約款)による統制及びシステム設計を利用者との関係で義務として把握され、加えてその展開を促進する法的枠組みが用意された。そのため、取引分野や規模で差異があるDPFにおいて均衡のとれた民事責任発生の可能性を明らかにしたものである。
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