研究課題/領域番号 |
19K01399
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
杉本 好央 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (80347260)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 契約の解除 / 解除原因 / 債務不履行 / やむを得ない事由 / 雇用 / 委任 / ボアソナード |
研究実績の概要 |
本研究は、解除の要件を契約の拘束力からの解放の正当化根拠という意味で「解除原因」と捉えた上で、法の歴史比較の観点から、民法が定める一般的な解除原因と特殊なそれとの体系的連関を解明し、これをもって2017年改正による解除の新規定(541条-543条)の含意と射程を検証する理論枠組みの構築を目指すものである。研究期間1年目である2019年度の目標は、ドイツ法およびフランス法との比較の視点を設定するため、日本法の議論を整理することにあった。 民法の定める解除は、解除原因という観点から見るとき、一般・特殊という座標軸のみならず、債務不履行とそれ以外という座標軸においても整理することができる。後者の座標軸から見れば、一方には541条以下の債務不履行を原因とする解除が存在し、他方には雇用の規定である628条に定められた「やむを得ない事由」を理由とする解除と、委任の規定である651条に定められた、特別の理由を必要としない解除とが存在することになる。 これら3つの解除を意識しながら日本法の議論を整理することが重要であると考え、まず、契約の両当事者がいつでも解除できるとする民法651条の射程が争点となった2017年民法改正の議論に検討を加えた。その結果、民法628条の「やむを得ない事由」を理由とする解除の内容および射程の解明が求められたので、次に、ボアソナード草案から明治民法に至るまでの同条の起草過程を素材とする検討を行った。 以上の作業により、解除原因の体系的連関という本研究の目的にとって、民法541条以下の債務不履行を理由とする解除と、民法628条の定める「やむを得ざる事由」を理由とする解除との関係性が重要な視角となることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、解除原因を基軸にすえて、法比較の観点から、様々な解除の体系的連関を明らかにするところにある。研究期間1年目である2019年度の目標は、ドイツ法およびフランス法との比較の視点を設定するため、日本法の議論を整理することにあった。 本年度の作業では、まず、2017年の民法改正にむけて展開された議論を素材とする検討を行った。解除原因の体系的連関の出発点となるのは、民法541条から543条に定められた、債務不履行を原因とする解除であるところ、民法改正論を対象とする検討では、その解除との体系的連関としてまず問われるべきは、民法628条の「やむを得ない事由」を理由とする解除の内容および射程であることが明らかとなった。 そこで次に、民法628条に関する検討を行った。同条による解除は、一方では労働法分野と接合する議論が、他方では役務提供型契約への妥当を、あるいは信頼関係破壊の法理の端緒段階では賃貸借型契約への妥当を念頭においた議論が展開されている。これらの議論の検討は重要な課題であるものの、本研究の目的からは、わが国の民法に定められた628条による解除の出発点における姿である。そこで、ボアソナード草案から明治民法に至るまでの起草過程を素材とする検討を行い、民法541条以下との異同あるいは注目すべき問題点の析出を試みた。 以上の作業から、法比較のための基本的な視点を獲得しており、おおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(2019年度)で得た知見に基づき、ドイツ法およびフランス法を素材とする検討を行う。現行民法628条の定める「やむを得ざる事由」による解除はすでにボアソナード草案で登場しているものの、その背景ともいえるフランス民法典にはこれに相当する規定はない。これに対し、ドイツ民法典はその626条においてこれに相当する規定を有している。 以上から、まずはドイツ民法626条の形成史に立ち入った検討を行う。この検討の中で、フランス法との連関もまた具体的なものとなるであろうし、さらには、わが国の民法628条の出発点における体系的連関への接近が可能となると考える。
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