本研究は、解除の要件を契約の拘束力から当事者を解放する正当化根拠という意味で「解除原因」と捉えたうえで、法の歴史比較の観点から、民法が定める一般的な解除原因と特殊なそれとの体系的連関を解明し、これをもって2017年改正による解除の新規定(541-543条)の含意と射程を検証する理論枠組みの構築を目指すものである。 研究期間1年目には、歴史比較の対象と視点を設定するために日本法の議論を整理し、民法541条以下の債務不履行を理由とする解除と、民法628条の定める「やむを得ざる事由」を理由とする解除との関係性の解明が重要な視角となるとの認識を得た。これを受けて、研究期間2年目には、日本の民法628条に相当するドイツ民法626条について、その形成史とりわけ民法典起草過程を素材とする検討を行った。その結果、ドイツ民法626条は、異なる系列の解除原因を総括するために「重大な事由」という抽象的な枠組みを選択して現れたものであることが明らかとなった。研究期間3年目には、以上の形成史をより立体的に把握するため、民法典起草作業の外におかれた営業労働関係および奉公労働関係に視線を向け、それらの法関係において期間満了前に一方的に雇用関係を終了させる権利がどのように利用されたのか、またそのような契約終了の権利(あるいはその根拠となる特別法上の規定)がドイツ民法626条の登場によってどのような影響を受けたのかを検討した。 研究期間4年目には、営業労働関係又は奉公労働関係における契約終了の権利に関する検討を継続しつつ、可能な部分について研究成果を公表した。 以上の研究の結果、やむを得ざる事由を解除原因とする雇用の規定は、債務不履行を解除原因とする契約解除の規定との関係では特別法と言えるものの、解除原因という観点から言えばむしろ一般法として理解することができるものであるという見通しを得ることができた。
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