本研究は、可分債権が非分割とされる場面の法理を明確化することを試みるものである。具体的には、次の3つの課題を設定した。(1)給付が可分である債権にもかかわらず、多数の債権者に分割帰属しないとされている事案の収集・整理を行うこと、(2)(1)で抽出された裁判例において、非分割とされた可分債権にいかなる法理が適用されているのかを整理・検討すること、(3)(2)の検討をふまえて、可分債権が非分割とされる法理を提示することである。 研究4年目である2022年度は、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しのために改正された民法の共有規定との関係の検討を行うと同時に、可分債権が準共有されず当然分割とされてきた場面とその根拠を明確化することを試みた。 2021年(令和3年)の民法改正においては、共有規定が大幅に改められた。具体的には、共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化、賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理の規定の整備等が行われたが、本研究との関係では、所在等不明共有者がいる場合の変更・管理が重要である。なぜなら、共同相続において、他の共同相続人が所在等不明である場合も存在するところ、そのような場合に、改正民法の規定が適用されるべきとも考えられるからである。 可分債権が準共有されず当然分割とされてきたのは、共同相続された損害賠償請求権(最高裁昭和29年4月8日判決)、共同相続財産から生じた賃料債権(最高裁平成17年9月8日判決)などである。前者は、共有者の一部が加害者に対して損害賠償を請求した事案であり、これを認めるべきともいえるため、当然分割を認めたと考えられる。後者は、共同相続人間の争いであるが、共同相続人間では共同口座を作り遺産分割まで賃料管理し、配分は協議により行うという「合意」があったため、相続財産とは異なって、当然分割原則が採用されたと考えられる。
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