「消費者脆弱性の制御をめぐる比較法政策学的研究―脆弱な消費者を包摂する契約制度」と題する本研究課題の遂行にあたって、契約法及び関連諸制度によってどこまで消費者脆弱性の制御が実現可能かについて、検討を行った。特に2023年度は、コロナウィルス感染症の拡大によって直前での中止を余儀なくされた国際共同研究を本格的に再開することができた点が大きな特徴であり、成果であるといえよう。 第一に、EU離脱後のイギリス消費者法の展開を知るべく、2023年4月から議会における審議が開始された「デジタル市場、競争、消費者法案」の議論状況を追ってきた。 第二に、消費者法にとどまらず、契約法の展開も含めて、EU法の最近の動向を知るべく、ドイツを中心とした国際調査も行った。 第三に、国際消費者法学会に参加し、日本の契約法、イギリス契約法、ヨーロッパ契約法における消費者脆弱性の取扱いに関して、比較法的考察を行い、報告後に会場参加者から多くの反応を得ることができた。 主としてEU法においては、デジタルプラットフォームに関する考察が多く、消費者脆弱性の中でも「デジタル脆弱性」のみが特に注目されているが、イギリス法においては、依然として、いわば「古典的な」脆弱性として、訪問販売や契約締結に先立っての情報開示等の従来型の脆弱性が問題視されている。さらには、企業に対する要求のあり方にも違いがみられた。すなわち、EU法においては、強い執行力等を伴うハードローの制定が求められる一方で、そこまでに至らない問題については消費者側の自己責任にされてしまうが、イギリス法においては、規格という自主基準が重んじられていることによって、全か無かに留まらない、脆弱性を有する消費者により寄り添った解決が可能であるとの知見を得た。そこで、研究成果の国内への還元にあたっては、イギリス法を良いサンプルとして、講演、講義、研修を行った。
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