本研究は、株式会社に対し一定の行動を促す効果を有する情報開示規制について、比較法的考察を基礎に、その望ましい在り方や有効な在り方を研究することを目的とした。当初、EU加盟国との比較も考えていたが、諸般の事情により、イギリスに加えてカナダとオーストラリアを比較研究の対象とし、連邦制をとる国の法制度との比較も可能にした。研究期間中も、この分野の規制と実務には急速な進展があり、日本の2021年改訂CGコードには人的資本等への言及が現れ、イギリスでは2022年初頭に会社法が改正されて、上場会社等には「非財務・サステナビリティ情報説明書」による気候関連財務開示が求められている。いずれも上場会社に一定の行動を促し、またはそれを意図して採用された開示規制であり、その対象領域はさらに拡大している。 そのため、2020年度に公表した雑誌論文の内容を、2021年度にアップ・デートして、これを所収する書籍の出版作業を進めてきた。本年中には刊行の予定である。他方で、法務雑誌の巻頭言で、取締役のダイバーシティに関する開示規制がソフトローから一部ハードロー化する状況について、英米の動向を取り上げた小論や、民間企業の研究所主催の商事法研究会において、2021年改訂CGコードのESG情報等の開示について研究報告を行った内容等をまとめた論文の執筆作業も進めており、こちらは大学の紀要での公表を予定している。 企業が雛形的な記載や表面的な開示に陥ることなく、開示規制が企図した目的を達成させるには、規制手法自体の検討も必要であり、また、任意開示と、ソフトロー、ハードロー、そしてこれら相互間の規制の連携により、全体としての開示規制の体系を構築することが重要であると考えられる。連携による取組によってこそ効果的に企業行動を促すことが可能になるであろうし、それによって企業の開示負担の適切な軽減も図ることができよう。
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