本研究は、わが国および主要国における虚偽の情報開示に対するエンフォースメントの状況をもとにしつつ、どのような形で民事責任制度を活用していくことが、虚偽の不実開示の効果的な抑止やそれが行われた場合の投資家へ救済(原則として金銭的な補償)に繋がり、結果として証券市場のIntegrityの向上に結びついていくのかということについて、データ分析や有用なモデルの構築と同モデルを用いた分析によって導き出すことを目的としている。 2022年度(令和4年度)も、前年度に引き続き、主に各国の文献調査に時間を割いた。会計学や経済学等の分野における文献を読み込みを中心に研究を進めた。それらの文献をもとにし、証券クラスアクションが盛んに提起され、そうしたケースの30%から40%が和解で終結しているアメリカにおいても、不実開示によって生じた経済的損失に対する和解金額の低さや和解プロセスへ煩雑さのため、現実には投資家がほとんど金銭的な救済を受けていない実態があることを確認した。また、各種先行研究によれば、証券クラスアクションを含む民事責任制度が有する不実開示の抑止効果についても、それを明確かつ定量的に示し、それを今後の制度運用や改革に活かしていくことの困難さも益々明確となった。 他方、こうした中でも、様々な研究者・文献等を通じ、とくにアメリカの証券クラスアクションについて、それを投資家に対する実効的な救済につながるような改善提案を行ったり、不実開示の抑止に結びつけようという様々なアイデアが示されており、引き続きそれらのアイデアをもとにアメリカの証券クラスアクションを中心とした諸制度や文献について分析を行い、アウトプットを出していく予定である。
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