私法と公法の役割分担という問題意識のもと、研究を進めてきた。研究計画では、標準旅行約款によって行政法的規制を受ける旅行契約(パック旅行契約)を取り上げて、私法的規制との関係について研究を進め、ドイツ法の状況を検討するなどしていたが、より議論の蓄積があり、研究の成果が見込まれる金融取引(信託契約および元本割れのリスクのある金融商品の販売に関する契約)をめぐる行政法的規制と私法的規制の関係にシフトして、公法におけるルール(免許・許可制、広告・勧誘や取引締結にあたっての種々の義務の設定、行政による調査監督や処分の権限)により私法的な取引における当事者の保護が図られる場面について研究を進めてきた。 これまで、具体的には、信託銀行に対する信託業法や金融商品取引法における公法的規制を明らかにするとともに、家族信託において信託契約の内容を弁護士や司法書士といった法律専門家が作成する場面を念頭において、これらの専門家に対して、どのような規制を及ぼすことが必要であると考えられるかを検討し、とりわけ後者の問題については、法律専門家が個別具体的な場面で負う義務について実務に対する問題提起を行ってきた。 令和4年度は、さらに実務家との対話の機会を得て、問題提起の趣旨を広く伝える機会を得るとともに、前記の法律専門家が信託契約を作成する場面における義務の類型化の試みを実務家執筆の書籍の刊行に寄せた序文で公表する機会を得た。このほか、民法全体に関わる問題として、いくつかの判例の解説を公開するとともに、解釈方法に関する基礎文献の紹介にも携わった。
|