本研究では、上場企業またはその株主が今日直面している状況のうち、特に重要性が高いものとして、①株主の機関化の進展と②MBOや締出しなどによる退出リスクの高まりを主に取り上げ、①②に伴い生じうる法的問題を分析・検討するとともに、企業価値または株主価値の向上という観点から制度改善の提言を試みた。 研究最終年に当たる本年度は、前年度までに進めていた①の点に関する研究内容を踏まえつつ、特に②の点に力を入れた。中でも本年度は、6月に経済産業省から「企業買収における行動指針」が公表されたことを受け、わが国において買収提案を巡る対象会社の取締役・取締役会の行動規範に関する議論が大きく進展したところ、本研究では同指針の内容に関する理論的な検討を行い、その成果として論稿をいち早く公表した(「『企業買収における行動指針』の理論的検討(1)」ジュリスト1592号20頁)。また、MBOの場面におけるマーケットチェックについて論じたほか(「MBOにおける手続的な公正さとマーケットチェック」商事法務2326号49頁)、企業買収の分野における近時の著名な2件の裁判例を題材に、その判断の背後にある理論的な考え方や実務に与える影響等に関して考察を試みた(「最近の買収防衛策を巡る動向(2)」日本取引所金融商品取引法研究26号61頁)。次に、①の点に関しては、株主アクティビズムの世界的な潮流に対するある種の対抗策として近時注目を集めている複数議決権株式の上場について、その機能と問題点を論じ、わが国で利用する際の制度のあり方について検討を試みた(「複数議決権株式の上場に関する一考察」『商法学の再構築』139頁)。以上のほか、上場企業における法人株主の議決権行使を巡る近時の問題につき、裁判例の事案を踏まえつつ検討を試みた(「書面による議決権行使と法人株主の使用人による株主総会会場への入場」商事法務2332号45頁)。
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