研究課題/領域番号 |
19K01414
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
木村 仁 関西学院大学, 法学部, 教授 (40298980)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 信託 / 後見 / アメリカ法 / 意思決定支援 |
研究実績の概要 |
2021年度は、第一に、アメリカにおける信託のデカントに関する研究、第二に、日本において民事信託を設定する際の委託者の意思決定支援に関する研究を進めた。 まず、アメリカの過半数の州では、受託者に利益分配に関する裁量権が与えられている場合、受益者の同意または裁判所の承認を得ずに、受託者のみにより信託を変更することが認められている。信託のデカントの正当化根拠、要件、デカントに対する制限、デカントにおける受託者の義務およびスペシャル・ニーズ・トラストの特例に関する州制定法を中心に、アメリカにおける信託のデカントに関する法の全体像を描出し、その意義と問題点を検討た。アメリカ法を概観すると、信託の変更に伴うコストが削減され、信託の可塑性が高められているといえる。またデカント権限に対する制限が具体的に規定されることにより、信託のデカントに係る受託者の裁量権行使の基準が一定の程度明確化されたといえる。他方で、信託のデカントが安定的に運用されるためには、州法の規定する文言の解釈について、さらに明らかにすることが求められる部分がある。 次に、①依頼人が後見代替アレンジメントを選択する際における専門家の助言義務の内容、および②民事信託を設定する際における専門家の助言義務の内容について、主として理論面からの検討を行った。特に、信託法の任意規定と異なる内容で受託者に有利な信託行為が定められる場合、民事信託の設定に関与する弁護士などの専門家は、善管注意義務の内容として、委託者の意思を十分に確認する義務を負うと解すべきことを示した。また、判断能力が衰えた委託者が、自身にとって不利な内容で信託の変更に同意することを避けるためには、信託の変更に関する同意権者を定めておくよう助言することが望ましいとの結論に達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、法定後見または任意後見と信託を併用する場合における法的諸問題を検討することにある。 2020年度までに、法定後見人、任意後見人、受託者、信託監督人および受益者代理人をめぐる法的関係の分析を終えて、その研究結果を公表することができた。2021年度は、まず、民事信託の変更に関する基礎的研究としてアメリカ法における信託のデカントを取り上げた。また、成年後見における重要な視点としてクローズアップされている意思決定支援を、民事信託においてどのように実現すべきかという観点から、信託設定に携わる専門家の役割を検討した。いずれも、本研究課題に関連して、今後さらに重要性を増すと思われる論点である。 したがって本研究課題に関する研究は、当初の予定どおり、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度においては、民事信託を設定する場合およびこれを変更する場合において、委託者の意思決定をいかに支援するべきかについてさらに検討を深め、研究成果として公表することを予定している。特に、受託者が個人である場合、民事信託の組成に関わる専門家が、信託監督人の選任を助言する義務を負うと解すべきか否かについて検討する。 また、富裕層でない高齢者や障がい者が自身の財産を管理する方策として、我が国の信託銀行が販売している代理出金機能付き商品と、アメリカ、シンガポールおよび香港のスペシャル・ニーズ・トラスト(special needs trust)を比較検討することを予定している。我が国においてもスペシャル・ニーズ・トラストを導入すべきか、導入するとすればいかなる内容が望ましいか、各国の事情に配慮しながら研究を進めることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
スペシャル・ニーズ・トラストの運用についてシンガポールを訪れ、また公的受託者の役割についてカナダまたはオーストラリアを訪問し、主として実務家にインタビュー調査を実施する予定であったが、新型コロナウィルスの流行により断念せざるを得なかったため、旅費の多くが未使用となった。 2022年度は、研究課題につき、日本国内の研究者または信託に精通した実務家と意見交換をするための旅費として使用することを計画している。また、感染状況が許せば、シンガポール、カナダまたはオーストラリアを訪問して上記課題に関するインタビュー調査を実施したいと考えている。さらに、研究課題に関連する最新の書籍を購入することを予定している。
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