2023年度は、高齢者が委託者であり、その子が受託者となる民事信託においては、受託者に有利な信託行為が、委託者の理解が不十分なまま定められることがあるという問題に対して、いかに解決すべきかを検討した。2022年に日弁連が公表したガイドラインに基づいて、弁護士や司法書士等の法律専門家が、信託契約締結時および信託存続期間中にどのように関与し、助言すべきかにつき、検討を行った。その成果は、「民事信託の利用と課題ー専門家による支援のあり方ー」年金と経済42号17-25頁(2023年)に公表した。 また、日本では民事信託の受託者に対する監督が不十分である点、および遺留分との調整が不明確である点につき、Asia-Pacific Trust Law Symposium 2023において、東京大学の溜箭教授と共同で口頭報告を行った。特に信託設定に関与した法律専門家による受託者に対する助言と監督の必要性を説き、また遺留分との調整に関してはルイジアナ州法を参考に法改正の可能性に言及した。その論稿は共著として出版される予定である。 研究期間全体を通じて、信託と後見を併用することの有用性を述べつつ、併用される場合における法的問題点(後見人が委託者または受益者としての権利を代理行使することの可否や、受託者に有利な信託行為の定めの有効性等)を検討し、濫用的な利用を防止する仕組みを提示した。信託と後見を適切に併用するためには、信託設定時および信託存続中に法律および福祉の専門家がチームとして関与することが望ましい。他方で、そのような仕組みには必然的にコストが生ずることになり、十分な資産を有しない者にとっては適切な利用が難しい可能性がある。公的機関介入の条件および方法については今後の課題としたい。
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