研究課題/領域番号 |
19K01418
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
及川 敬貴 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (90341057)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 財産権尊重条項 / 環境法 |
研究実績の概要 |
財産権尊重条項の法令中への挿入は、文化財保護法制定時(1950年)が最初であり、その後、自然公園法、自然環境保全法、種の保存法へと伝播した。そこで、平成31年度は、文化財保護法に財産権尊重条項が挿入された背景の探索、自然公園法中の財産権尊重条項の機能解明のための予備的なヒアリング、関連裁判例の分析等を行った。その結果として、 (1)なぜ他の法律に先んじて文化財保護法に財産権尊重条項が挿入されたのかは、長きにわたって不明であったところ、隣接領域(具体的には、歴史学)の先行研究にまで目を向けることによって、同法への右条項挿入の背景には、GHQからの圧力があったことを確認できた。この点は、歴史学における近年の成果により明らかにされたものであり、法学では管見の限り、先行研究ではふれられていなかったものである。 (2)環境省にて予備的なヒアリング調査を行い、「財産権尊重条項が保護区指定を妨げている」という言説は正確ではないこと等が分かった。 (3)大阪高裁は、その平成26年判決4月25日判決(判自387号47頁)において、自然公園法中の財産権尊重条項(4条)について、「自然風致景観利益とは必ずしも直接的な関係がないとはいえ,国立公園等や特別地域の区域内の土地の所有者等の権利にも一定の配慮をすべきことを定めたものといえる」と述べた。周辺住民等を配慮する規定の有無を確認するべく、同条項を引照したものであるが、先行研究が指摘するように、「こうした規定が念頭に置く利益状況とは(本判決も自覚的であるように思われるが)異なるものと思われ、やや違和感・・・[が]ある」。ただし、自然風致景観利益が、行政と周辺住民等との協働の下に客観的な価値となるという性質のもの、すなわち、公私協働から創出される個別的保護利益であると解すれば、上記の違和感は緩和ないしは払拭され得るといった形で検討を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)日本の法律中への財産権尊重条項挿入に、GHQの関与が大きかったことを、法学の研究としては初めて確認できたためである。歴史分析を進めていくに当たって、スタート地点を固められたことの意義は大きい。
2)環境省のスタッフとのコネクションができたことである。次年度以降の現地調査は、今回の予備的調査なくしてはあり得ない。もちろん、予備的なヒアリングで話をうかがった環境省のスタッフとのコミュニケーションは継続している。 3)自然公園法中の財産権尊重条項の機能について言及した上記の裁判例について、検討し、成果として公表することができたためである。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、前年度の研究成果をもとに、①この条項はいかなる経緯でわが国の「環境法」の中に増殖するに至ったのか、②政策決定の現場において、この条項はどのように作用しているのか、③同様の規定は海外の法制度にも存在しているのか、といった作業課題に取り組む。
作業課題①②: この条項は、複数の法律に書き込まれているが、先行研究では、それらを一括りにして捉え、否定的な評価を与えてきたようにみえる。しかし、こうした条項がとり入れられた経緯や、各法律での意味・意義、それに制度運用の実際が同一であるとは考え難い。そのため、①や②について、自然公園法と種の保存法に的を絞って検証を行う予定である。
作業課題③: この条項については、ある先行研究において、「先進国の自然保護法には見られない規定」との指摘がなされているが、本格的な検証作業はなされていない模様である。そのため、この条項をめぐる法制度状況が「日本的特殊事情」なのかどうかも、判然としない。そこで、③の検証が必要になり、仮に、他国の環境法にも存在すれば、その規定ぶりや導入趣旨等が問われなければならない。この点では、ニュージーランドや豪州において、財産権を尊重しながら、自然環境を保全しようとしている制度が発展をみていることから、そうした財産権調和型の環境政策の基本構造を的確に捉えるべく、比較分析に着手する予定である。
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