研究課題/領域番号 |
19K01419
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
稲葉 実香 金沢大学, 法学系, 准教授 (00402941)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生命倫理 / 人工妊娠中絶 |
研究実績の概要 |
本研究のメイン部分であるフランスの生命倫理法の改正はまだ立法過程の途上であり、研究をまとめ報告する段階にはないことから、初年度においては生命倫理法には包摂されていない人工妊娠中絶の法制化について研究し、「人工妊娠中絶法制の日仏比較――非犯罪化から権利へ」としてまとめ、発表した。 人工妊娠中絶は生命倫理における問題の一つであるため、研究テーマ「フランスにおける生命倫理の法制化」に含まれるものであり、1975年に始まってほぼ制度としては固まった上で、近年もなお手直しが進んでいる分野である。現在進行中の生命倫理法の改正や終末期の権利の法制化においては、国家倫理諮問委員会(CCNE)や議会科学技術選択評価局などが既に存在し、全国会議のシステムも整えられており、それが立法に寄与しているが、人工妊娠中絶の権利化・法制化の過程ではこれらがまだなかったり、制度・組織の萌芽期において、立法にどのようにかかわり、どのような示唆を与えたのかという意味で、生命倫理法前史に当たるものとも評価できる。 また、フランスで法制化され権利として確立した人工妊娠中絶制度を日本の現状と比較することにより、日本で欠如している視点、すなわちそれが権利であること、医療において当然に要請されるインフォームド・コンセントや治療選択権、疼痛管理などのQOLの確保が求められるにもかかわらずそれが実現されていないことなどの問題点が浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初人工妊娠中絶法制の研究は予定していなかったが、フランスにおける生命倫理分野における最初期の法制化の例であり、その議論と歴史をつぶさに追うことで現在の生命倫理法の改正にかんする研究にも様々な示唆が得られ、研究の意義は大変大きいものであった。 また同時に、生命倫理法の改正についても随時立法過程を追いかけており、法成立まではまとめることは考えていないが、研究そのものは進捗しているといえる。なお、この立法経過について、論考「欧州における家族法制をめぐる動向――フランスを中心に」の中で触れており、またこの論考は今回の改正のメインテーマである同性カップルの生殖補助医療の利用についてのヨーロッパにおける動きをまとめたものでもあるので、本研究においても意味のあるものである。
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今後の研究の推進方策 |
生命倫理法の改正が成立するまでは、これについてまとめることは考えていない。生命倫理法は生殖補助医療を中心とした改正になるので、この分野については成立まではフランス議会での議論や国民の反応を追いかけつつ、もう一つの大きな研究の柱であり、フランスでは2016年の改正を最後に現在は大きな動きは見られない、終末期の権利の歴史と発展について、次にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り使用したが、7000円弱の次年度使用額は誤差の範囲であり、差し迫って必要がない文房具等を購入して使い切るよりは、来年度購入予定の書籍や物品に回す方が研究に資すると考えた。
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