研究課題/領域番号 |
19K01419
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
稲葉 実香 金沢大学, 法学系, 准教授 (00402941)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生命倫理 / 生殖補助医療 / リプロダクティヴ・ライツ / 安楽死 |
研究実績の概要 |
2021年度もコロナ禍のため、フランス調査が実施できず、フランスの生命倫理法の研究はあまり進めることができなかった。そのため、日本での生命倫理をめぐる立法、判例や事件についての研究を進めた。 まず、2020年末に生殖補助医療法が成立したこと、2020年11月に代理出産をめぐる判決が示されたことから、すでに(一)を2021年3月に公表した「生殖補助医療と親子関係――男性のリプロダクティヴ・ライツにかんする一考察」の後半部分を執筆・公表した。これには2020年から相次いで出された旧優生保護法下の強制不妊手術についての下級審判例において生殖に関する権利が承認されたことも反映したものとなっている。さらにもうひとつ、リプロダクティヴ・ライツをめぐる判例である「性同一性障害者特例法における性別適合手術の強制と憲法13条(最決平成31年1月23日判時2421号4頁)」を執筆し、リプロダクティヴ・ライツのみならず医療にかんする権利の側面からも分析を行った。 次に、2020年に、前年に京都で起こったALS患者嘱託殺人事件についての報道があったことを受け、「神経難病と安楽死」を執筆し、平成7年判決では対象となっていなかった神経難病患者の安楽死の権利について検討した。さらに、諸外国で安楽死合法化立法が相次いでいることから、これらを紹介し日本での議論に資するため、医事法学会で「安楽死要件を再考する――比較法の観点から――」と題する報告を行い、これに加筆したものを年報医事法学37号に掲載予定である(原稿提出済み)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により渡仏できないことで、本来行う予定であったフランスの生命倫理立法の調査・研究については大幅な遅れが出ている。フランスでの生命倫理法改正は1年ほど遅れて成立したが、この過程において生命倫理国民会議(Etats-generaux de la bioethique)が大々的に開催され、その国民的な議論を立法に活かすというこころみについての調査が本研究の根幹であるところ、国民会議を主催した生命倫理諮問委員会(CCNE)でのインタビューは不可欠であり、これが2年にわたって不可能となっていることで、本来の研究計画が進められない状況になっている。 その代わり、研究計画段階では予想されなかったことであるが、この数年、日本で生命倫理をめぐる立法や判例が相次いで出されており、これらについての研究を進めている。とりわけ、フランスの生命倫理法改正との関係が深いリプロダクティヴ・ライツについて、この1~2年で判例により確立されつつあり、本来の研究計画にはなかったことであるが、日本のリプロダクティヴ・ライツの実現過程の研究としては、最新の状況をいち早く取り上げ、一定の成果を挙げているものと考える。 さらに、これも研究計画にはなかったものであるが、安楽死についても最新の外国立法を紹介して比較を行い、日本での議論に資する研究となっていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後もしばらくは渡仏が難しい状況が続くと考えられる(渡仏そのものは可能でも、学務日程との関係で、帰国後の隔離期間を取ることが難しい)。そのため、フランスについては引き続き日本での文献調査を進めつつ、渡仏が可能となった折に現地調査を行い、論文を公刊できるよう準備をすすめる予定である。 フランスについては調査が終了するまで研究をまとめることはできないので、その間、日本での新しい動きについて、さらに考察を進め、論文として発表してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していたフランス調査ができなかったため、旅費および現地で購入予定であった書籍冷や資料のコピー代等が余った。さらに、国内の学会・研究会もほとんどがウェビナーで行われたため、国内旅費も使わなかった。 2022年度は、コロナ禍が収まることを前提に、フランス調査を行い、また国内の学会もリアル開催となることを想定して予算を計上している。ただし、学内の事情により隔離期間を含めた海外渡航の日程を取ることが難しく、隔離期間が撤廃されない限り渡仏は難しい。国内学会の開催方法も、コロナの状況次第でどうなるかは不明である。
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