研究課題/領域番号 |
19K01420
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
池田 秀敏 信州大学, 経法学部, 特任教授 (10422700)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | デジタル遺品 / デジタル遺産 / インターネット / サービス規約 |
研究実績の概要 |
グーグル社が設けたデジタル遺品の開示制度においては、メールデータがアカウント保有者によって指定した者に開示される場合があり得る。他方で、フェイスブック社のように、一定のデータ開示制度を設けつつもメールに相当する部分の開示は制限している例もある。このように、メールのようなプライバシー性の高いデジタル遺品の開示については、取り扱いにばらつきがあり、多くの事業者は消極的である。この点について、改正電気通信事業法によってグーグル社のような外国法人にも通信の秘密保護義務が課せられることとなった経緯を踏まえつつ、送信者のプライバシー保護の観点から検討した。その結果、グーグル社の当該例は、違法と評価できるものではないとの結論に至った。 また、アメリカの統一州法委員会が起草した"REVISED UNIFORM FIDUCIARY ACCESS TO DIGITAL ASSETS ACT "(RUFADAA)の定義する「デジタル遺産」と対比しつつ、わが国の財産法の枠組みを前提とした場合、デジタル遺品はどのような種類に分類できるかを分析し、それぞれの種類ごとの法律上の扱いを可能な限り網羅的に検討した。 これまでの研究により、デジタル遺品を巡る現行法上の扱いの全体像を俯瞰することが可能となったほか、インターネット上のサービスを提供する事業者が設定するサービス規約によって実務上の相続承継が限界付けられていること、サービス規約が適切に規定されているかが検討されるべきであることなどが明らかとなった。こうした研究成果については、「デジタル遺品を巡る権利義務と実務上の課題」(信州大学経法論集第10号)を執筆して公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デジタル遺品には諸形態があるが、法的な観点に基づく分類の整理と、分類ごとの検討が一巡し、現行法上の扱いの全体像を俯瞰できるようになった。また、RUFADAAにおけるデジタル資産の扱いが概観でき、わが国における現行法との対比が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
デジタル遺品の相続承継の可能性については、インターネット上のサービスを提供する事業者が設定するサービス規約によって実務上の相続承継が限界付けられており、その困難さが明らかとなってきた。そのため、実務の動きも相続承継によらない生前対策に移っている。 一方で、多様なデジタル遺品の中で、暗号資産に対する関心が高まっている状況にあるが、わが国の財産法においては、暗号資産は有体物にも非有体物にもなり得る特異な性格を有している。"REVISED UNIFORM FIDUCIARY ACCESS TO DIGITAL ASSETS ACT "(RUFADAA)において規定されている「デジタル資産」は、わが国における物権法にはない観点から定義付けられているため、この起草案では暗号資産が有体性とは関連することなく、当然に他の「デジタル資産」と同様の規律が適用されている。 今後の研究においては、暗号資産の諸形態によって異なってくるわが国の財産法の適用関係や、暗号資産に対するRUFADAAの扱いの検討に重点を置く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
デジタル遺品に関連するセミナーへの参加、諸研究機関での資料収集などを予定していたが、コロナ禍の影響で関連する旅費の支出が大幅に減少した。近隣研究機関での資料収集や他のアクセス可能な資料の収集方法に費用を振り向ける予定である。
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