研究課題/領域番号 |
19K01421
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
赤渕 芳宏 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (60452851)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境法 / アメリカ環境法 / 予防原則 / 科学的不確実性 / 純粋に仮定的なリスク / 憶測 / リスク管理 / 絶滅の危機にある種に関する法律 |
研究実績の概要 |
2020年度は、研究実施計画に従い、アメリカ環境法における〈「憶測」の排除〉に関する裁判例や論文、書籍などの概観的な調査を引き続き行い、あわせて、2019年度に収集した裁判例と学術文献との分析を行った。これらの作業は、アメリカ環境法における、行政決定の根拠となることが法的に認められない科学的知見の範囲を同定し、あわせて、そのような科学的知見に基づく行政決定を違法とする判断の法的根拠を探究することを目的とする本研究における、基盤的知見を構築するものである。 裁判例の分析においては、絶滅の危機にある種に関する法律(ESA)に基づく連邦行政機関の決定を、それが依拠する科学的根拠が「憶測的」であることを理由に違法とした判決につき、そこにいう「憶測」の内容、そうした措置を違法とした論理構成に着目し、作業を進めた。 その結果として、第1に、「憶測」の内容としては、(1)行政決定を支持する証拠が全く存在しないこと、(2)行政決定を支持する「一般に受容された」法則はあるが、これを支持する証拠が存在しないこと、または(3)行政決定を支持する定量的データが存在しないこと、と理解されていることを明らかにした。また、第2に、これらの裁判例では、行政決定の審査基準として、専断的・恣意的基準(連邦行政手続法706条(2)(A))が用いられているが、それがさらにどのように解釈されているかについて、(a)その一内容としての、「合理的な関連性」がないこと、(b)その一内容としての、行政決定が「行政機関が入手した証拠と反対の結論」であること、または(c)特に解釈を施さず、専断的・恣意的基準それ自体から直接に違法の結論を導き出すもの、といった変型がみられることを明らかにした。 以上の研究結果は、取りまとめた上で学会において口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画では、研究2年目である2020年度においては、2019年度に引き続き、(1)関連する裁判例および学術文献の渉猟と分析とを行うこととしていた。また、2019年度の実施状況報告書では、今後の研究の推進方策として、(2)気候変動の影響による50年後以降の環境予測を「憶測」として扱った裁判例の分析と検討、(3)ESAに関する裁判例における、専断的・恣意的基準の解釈の分析、を行うこととしていた。 しかしながら、2020年度の後期に、所属する大学の法科大学院において講義を開講することとなり、前期終了から年度末に至るまで、その準備と実施、および試験の実施と成績評価等に追われ、これら以外の作業に時間を割くことがほぼ不可能な状況となった。このため、当初予定していた作業のいくつかを翌年度に持ち越さざるを得なくなった。 こうした状況の下で、以上の作業項目のうち、(1)では文献の収集はおおむね完了したものの、その精読は思うように進まなかった。(2)については、分析は終えたものの、論文化に着手するには至らなかった。また(3)は、研究実績の概要に記したとおり、その一部は取りまとめることができたものの、取り扱った裁判例が十分とはいえなかった。 これらのことから、上記の区分のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2021年度においては、これまでに収集した学術文献および裁判例の分析を進め、その整理を行う。これを踏まえ、行政決定の根拠における〈「憶測」の排除〉に関し、(1)排除されるべき「憶測」とは科学的知見のいかなる状態を指すのか、また(2)〈「憶測」の排除〉はいかなる根拠に基づいて行われるか、などの諸点に関する、アメリカ環境法の理解の一断面を提示する。これらについては、これまでの調査によりその大枠は示されているが、2020年度において先送りとした学説と裁判例との分析を進めて、その結果を反映させることにより、より精緻な理解を得る。また(2)については、従来、(a)行政裁量の審査基準である専断的・恣意的基準、(b)ESAが定める、行政機関に対する「利用可能な最善の科学的・商業的データ」の利用義務、などが主に考えられるとしていたところ、これまでの調査によれば、実際に採用されるものの大半が(a)であることが明らかとなっている。このことから、今後の研究において裁判例や学説を分析するにあたっては、同基準に焦点を当てて、それがどのように解釈されているのかに着目することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた出張が、新型コロナウイルス感染症による影響のためすべてキャンセルとなった。これにより生じるおそれのあった知見の不足は、関連文献を追加的に収集することにより補うこととした。当初使用を予定していた国内旅費を設備備品費(図書購入費)に充てたところ、その差額分が次年度使用額として生じたものである。 2021年度においても、当面、出張が困難な状況が見込まれることから、かかる次年度使用額は主として図書の購入に充当することとする予定である。
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