研究課題/領域番号 |
19K01424
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
神馬 幸一 獨協大学, 法学部, 教授 (60515419)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 終末期医療 / 終末期ケア / 矯正医療 / 矯正施設 / 高齢被収容者 |
研究実績の概要 |
課題研究に関連する問題として「矯正施設における終末期ケアの在り方」と題した論稿を大学紀要に連載中である(獨協法学109号以降)。現在,世界的な潮流として,矯正施設における自然死の増加が指摘されている。すなわち,高齢被収容者の増加と同時並行的に,矯正施設内で人生の最期を迎える者が増えてきており,諸外国においても,その問題性が認識され始めてきている。 この点,我が国では,かかる問題状況に対する研究が立ち遅れた状況にあることを指摘した。上記論稿では,近時,公表されたスイスにおける研究成果を有意義な参考例として,次に掲げる観点から,その問題の検証を試みている。先ず,前提問題として,高齢被収容者の処遇に関連する法令上の制度的根拠を確認した。その上で,矯正施設において死を迎えることが想起しうる倫理的問題の内容を検証した。そこでは,欧州各国で展開されている模範的論証が実務上の問題解決として受容可能かを争点とした。更に,そのような倫理的問題が生じうる要因を社会科学的観点から解析した。そこにおいて,高齢被収容者に対する終末期ケアは,従前の実務的対応の延長線上で,どのように醸成することが可能なのかを検討した。 また,同様の課題状況を25th Annual World Congress on Medical Law and Bioethics(2019年8月6日:早稲田大学)において,「Poster Session: Emerging Legal and Bioethical Issues Associated with End-of-Life Care for Elderly Prisoners in Japan」という題目で発表し,その成果は,同名題目で,Medicine and Law Vol. 38 No. 4に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者の事前指示及び医療代理における問題に関して,国内外の研究者との情報交換を元に,主として国外における議論状況を整理中の段階にある。 特に,ドイツ語圏における法的状況を点検する過程で,そこにおける規制の本質を明確化するようなかたちで,個々の論点を帰納的にまとめあげている段階にある。延命処置中止により,人生の最終段階にある患者が死を迎えようとしている際,そこで患者の意思を反映させる手段としては,「事前指示(推定的自己決定)」又は「医療代理(他者決定)」の利用が考えられる。これらの制度は,主に民事法領域(例えば,成年後見法制)の中で検討されてきており,その刑事法上の効力に関しては,未だ我が国で十分に検討されてはきていない。このような法的制度設計上の民事法と刑事法の調整に関する(医事法的)問題に関して整理している段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続的に「規制内容」に関する確認作業が必要である。ここにおいては,患者の事前指示及び医療代理に関する公的規制の設定により,どのような影響が医療現場に生じるのかというような実務的な問題も対象となる。更に,「規制手続」に関する検証が必要である。患者の事前指示及び医療代理に関する公的規制を設ける場合,関係者間の利益対立を効果的に調整する手続が必要となる。特に,そのような規制により影響を受ける患者家族の状況も考慮する必要性が生じる。この点に関して,法的・倫理的・社会的妥当性を有する制度設計の在り方を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算額の99%は執行済みであるのに対して,残額は,全体の0.4%であり,少額であることから,予算執行を管理する部局との相談の上で,今年度中の研究計画で執行することを見合わせた。
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