研究課題/領域番号 |
19K01424
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
神馬 幸一 獨協大学, 法学部, 教授 (60515419)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 終末期医療 / 臨死介助 / 医師介助自殺 / 患者の事前指示 / 死亡指示法 / 医療代理 / ドイツ / オーストリア |
研究実績の概要 |
本件研究課題に関係する海外の動向として,2020年中に,ドイツ及びオーストリアの憲法裁判所が示した自殺関連刑法規定に対する違憲判決後の立法的対応に関する分析を試みた。これらの判例は,両者共に,かかる刑法的な自殺支援の広範な禁止を撤廃する帰結として,自殺という選択肢を迫る社会的圧力が生じる可能性を十分に認識しており,それに対抗するために,弱者を保護する新規立法の必要性にも言及している。 したがって,現在,両国は,自殺願望者における生命と自己決定権の保護を同等に満たす適正手続の確立が両国の政治的課題として取り組まれている。実際に,オーストリアでは,2022年1月1日施行というかたちで,「死亡指示法の制定並びに麻薬法及び刑法の改正に関する連邦法」が成立した。ここにある新規の「死亡指示法」は,死亡意向者における意思決定の自由を保障しながらも,その濫用が防止されるように,かかる意思決定から自殺用途の致死性薬剤交付までの過程を規制する手続的立法である。このようなオーストリアにおける立法動向は,「臨死介助の手続化」という表現により,要約することも可能であろう。しかし,その一方で,ここにおける過剰な手続化は,「臨死経過における官僚化」をも生じさせ,結果として,自殺幇助罪を廃止へと追い込む論拠の本質に据えられていた自律性が逆に損なわれうるという懸念も示されている。ドイツも,そのような隣国の影響を受けて,新規立法を準備中の段階である。 以上で展開される議論内容は,両国固有の課題というよりかは,おそらく我が国においても同様に妥当しうる普遍性が見込まれる。このことから,両国の動向は,引き続き注目に値するように思われる。この点に関する研究内容を学会及び専門誌等に公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
患者の事前指示及び医療代理における問題に関して,国内外の研究者との情報交換を元に,主として国外における議論状況を整理中の段階にある。特に,ドイツ語圏における法的状況を点検する過程で,そこにおける規制の本質を明確化するようなかたちで,個々の論点を帰納的にまとめあげている段階にある。 ただ,新型コロナウイルス(COVID-19)による影響で,2021年度は,海外での現地調査が滞り,現在,インターネットの活用が主たる研究方法となっているこ とから,情報収集という点で,若干,立ち遅れている部分がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続的に,患者の事前指示及び医療代理に関する比較法的な確認作業が必要である。ここにおいては,患者の事前指示及び医療代理に関する公的規制の 設定により,どのような影響が医療現場に生じるのかというような実務的な問題も対象となる。更に,「規制手続」に関する検証が必要である。患者の事前指示 及び医療代理に関する公的規制を設ける場合,関係者間の利益対立を効果的に調整する手続が必要となる。特に,そのような規制により影響を受ける患者家族の 状況も考慮する必要性が生じる。この点に関して,法的・倫理的・社会的妥当性を有する制度設計の在り方を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により,予定していた国内・国外出張等に関する旅費が生じなかったことによる。 次年度も,同様の状況が継続する可能性が高いことから,出張に伴う研究計画を見直した上で,別の費目に振り分ける必要性があるように思われる。
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