研究課題
2023年度は、3か国の終末期医療法制の特徴を明らかにするため日本法との比較研究をおこなった。わが国の終末期に関わる法的枠組みはソフト・ローに基づく点に大きな特徴がある。こうした現行制度が抱える課題としては次の2点が指摘しうる。第一に、ガイドラインが十分に機能せず紛争が裁判所に持ち込まれるケースが発生している。治療行為の中止に関して意思表示できない本人に代って家族が同意できるかが争われた事案で、東京地方裁判所(平成28.11.17、判タ1441号233頁)は、家族による同意を正当化しうる明文の法的根拠は示さないまま、治療を拒否する権利を家族に認めた。しかし、このような裁判所の判断は、厚生労働省のガイドラインに合致していない。同ガイドラインでは、いきなり家族に治療拒否権を認めず、家族が患者の意思を推定すべく努力した上で医療者が家族と話し合うことが前提とされているからである。ところが、本件で裁判所は、このプロセスが踏まれたかどうかを検討せずに、家族の要望をうけ治療を中止した医師の責任を否定した。このように、ガイドラインの機能にも限界があることが徐々に明らかになりつつある。第二に、立法化の必要性とその難しさである。日本で初めて安楽死が争われた事案(1950年)から川崎協同病院事件(2009年最高裁判決)までの約60年に、直接・間接的に安楽死が争われた事案は8件のみであり、かつそれらが立法化につながることはなかった。要因として、①明文の憲法規定による権利保障が欠如している、②包括的に患者の権利を保障する法律がない、③治療を中止あるいは差し控えた医療者に対する明文の免責規定がない、といった点が挙げられる。日本に独特な歴史的・文化的背景を踏まえソフト・ローに基づく枠組み整備という方法も肯定しつつ、少なくとも、治療を中止した医療者の法的責任の所在については立法化すべきであると考えられる。
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Revue de droit sanitaire et social
巻: n°1, janvier-fevrier 2024 ページ: pp.5-13
愛知大学法学部法経論集
巻: 235号 ページ: 1-20頁
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