研究課題/領域番号 |
19K01441
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿毛 利枝子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10362807)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 司法政治 / 比較政治学 / 行政訴訟 / 司法改革 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、わが国の行政訴訟制度の特徴を他の先進各国との比較において位置づけた上で、その形成要因を政治学的に分析することである。従来、わが国の行政訴訟制度は原告適格の要件の厳しさや、出訴期間の短さなどから、他の先進諸国と比較して原告にとって不利であるといわれており、このため他の先進諸国と比べて行政訴訟の件数も少なく、また原告の勝訴率も低いといわれてきた。しかし2000年代前半、一連の司法改革の一環として行政事件訴訟法が改正(2004年)され、原告適格が拡大され、救済範囲が拡大されるとともに、出訴期間も延長され、また2014年には行政不服審査法が改正されるなど、訴訟の提起をしやすくする改正が続いている。 行政が自らに対する異議申し立てを制限しようとするのは当然であるが、その制限の仕方や程度には国によって差異がある。わが国の行政訴訟制度はどのような点において、どこまで制限的なのか。そのような制度が成立した政治的な要因は何か。この20年ほどの間に行政訴訟をむしろ促進する制度改革が続いているのはなぜか。それらを可能としている政治的条件は何か。本研究は、これらの問いに対して比較政治学的な分析を行い、仮説を提示しようとするものである。 研究一年目の2019年度には、わが国の行政訴訟制度の成立とその改革について詳細な事例研究を行った。戦後日本の行政訴訟制度において重要な事例は二つあり、一つは1962年の行政事件訴訟法の制定、もう一つは2004年の行政事件訴訟法改正である。これら二つの事例について、過程追跡の手法を用いて、制定・改正の経過を詳細に検討を行った。これらの事例分析を通して、どのようなアクターがどのような主張を行い、どのアクターの主張がなぜ通ったのかを明らかにした。また戦後の制度導入・改革を理解する前提として、戦前の行政訴訟制度と、占領期の行政訴訟制度改革についても概観した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究一年目の2020年度には、わが国の行政訴訟制度の成立とその改革について詳細な事例研究を行った。戦後日本の行政訴訟制度において重要な事例は二つあり、一つは1962年の行政事件訴訟法の制定、もう一つは2004年の行政事件訴訟法改正である。これら二つの事例について、過程追跡の手法を用いて、制定・改正の経過を詳細に検討を行った。これらの事例分析を通して、どのようなアクターがどのような主張を行い、またどのアクターの主張がなぜ通ったのかを明らかにした。また戦後の制度導入・改革を理解する前提として、戦前の行政訴訟制度の制定過程と、占領期の行政訴訟制度改革の過程についても歴史的な概観を行った。研究の結果、とりわけ2004年の行政事件訴訟法改正においては、日本弁護士会連合会と、自由主義的な企業や研究者のネットワークの間の連合が重要な影響を与えた可能性が示唆された。 わが国の事例に対する歴史的・多面的な理解がなければ、海外の事例も十分に理解しえないので、わが国の行政訴訟法制度をめぐる政治過程をたどる研究一年目のこの作業は、二年目以降に行う国際比較研究の重要な土台ともなる。進行中の研究の成果は、2019年12月に開催されたアジア法社会学会(Asian Law and Society Association、会場・大阪大学)において報告を行い、国内外の行政法や法社会学分野の研究者の方々から貴重なコメントを頂くことができた。これらのフィードバックを踏まえて、研究をさらに進めることができた。 また研究二年目に行う国際比較研究の作業を少し前倒して、海外の事例について読み込みや調査を行った。具体的には、アメリカ行政訴訟制度に関する短期間の調査を行うとともに、リサーチ・アシスタントの協力を得て、台湾の行政訴訟制度に関する調査も始めた。これらの作業は、研究二年目となる2020年度以降も継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究一年目の2019年度には、わが国の行政訴訟制度をめぐる政治過程について研究を進めることができた。研究二年目となる2020年度には、この一年目の成果を土台に、わが国における行政訴訟制度の特徴を国際比較の観点から位置づける作業を行う。その際、特に三点に注意を払う。①他の先進諸国との比較においてわが国の行政訴訟制度がどのような特徴をもつのかという「横軸」、②先進各国において、歴史的にどのような行政訴訟制度がどのような時期に導入されてきたのかという「縦軸」、③先進各国において、どのような行政訴訟制度の改正がどのような時期に実現してきたのかという「変化」の考察である(これも「縦軸」に含まれる)。わが国の行政訴訟制度を、国際比較の「横軸」と、歴史という「縦軸」の二軸において位置づけることで、より重層的な理解に繋げたい。わが国の行政訴訟制度は、明治期に大陸法、とりわけプロシアの影響を受けて創設されたが、占領改革期にはアメリカの影響も受けているため、比較の対象としては、主としてドイツ、フランス、アメリカなどを念頭に置くが、ほかにも英米法体系をもつイギリスや、日本に近い法体系をもつ韓国や台湾などとの比較も念頭に置く。この中から数カ国を選び、掘り下げて日本の制度との比較を行う。これらの作業は、本格的な比較分析を行う研究三年目の重要な準備作業となる予定である。 これらの作業については、文献調査が中心となる見込みであるが、必要に応じて、また海外渡航が可能な状況となるならば、短期間の海外調査も行いたい。状況によっては、海外調査は研究三年目(2021年度)まで延ばす可能性もある。学会開催の状況などが不透明な今年度であるが、進行中の研究については、可能な限り、学会や研究会などにおいて報告を行い、行政法や法社会学分野などの研究者の方々からフィードバックを頂いて、その後の研究に活かしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末に到着予定であったソフトウェアの到着が新型コロナウイルスのために遅れ、2020年度以降に支払い予定となった。ソフトウェア自体は発注済みであるので、到着次第、差額を使用予定である。
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