文部省刊行の『國體の本義』は、昭和戦前期の政治思想史上の重要な出版物として意味を持つものであると同時に、官庁の事業として政策的意義を持ち、当時の政治過程における独特の文脈的意義を持つものである。本研究は、その政策的・文脈的意義の解明に取り組むとともに、思想内容の曖昧さにも注目し、昭和10年代日本の國體論を政治思想と政治過程の両面から把握しようとする所に学術的意義を有する。この昭和10年代は、国家主義的な思想の流行と政治権力の強大化とが同時に進行した時期でもある。本研究の社会的意義は、この時期の日本への理解を深めることに、ささやかながらも貢献しうる所にある。
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