研究課題/領域番号 |
19K01468
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
中澤 俊輔 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (50707891)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 警察 / 戦後 / テロ / デモ / 暴力 / 政治 / 警備 / 公安 |
研究実績の概要 |
1年目の令和元年度は、研究実施計画に従い、1960年代の自民党政権における警備・公安警察の活動について分析した。また、安保闘争から1970年安保改定に至る政府首脳と警察の情勢認識について、新聞報道や政党機関誌、警察の内部資料をもとに分析した。第一に、相次ぐデモとテロによって治安情勢が緊迫化する1960年代初頭には、自民党、社会党、民社党が政治的暴力行為防止法案などの治安立法を議員立法として国会に提出した。第二に、1960年代の東京都政における治安問題について各種資料を中心に調査を行った。第三に、池田・佐藤内閣期における警察の情勢認識について、国立公文書館が所蔵する警察の内部資料を中心に検討を行った。 2年目の令和二年度は、前年度に引き続き公文書、政党機関誌、国会会議録、新聞報道等に依拠しながら、1960~1970年代の治安情勢をめぐる政治過程を検討した。警察庁警備局編纂の『焦点』の内容を精査し、過激化する学生運動に対する警察内部の情勢認識を検討した。加えて、内閣調査室(内調)の『焦点』『展望』を調査し、国内治安に関する政権の情勢認識について検討した。また、公安調査庁の内部資料を調査した結果、1960年代にかけて、公安調査庁は左翼運動に加えて右翼運動への警戒を増したものの、テロを未然に防ぐには至らなかったことが読み取れた。 3年目の令和三年度は、旧警察庁所蔵の公文書をもとに、戦後にかけて、暴力犯罪が政策課題として認識され、1960年代に政治的暴力行為防止法案が起草される過程を整理した。また、岸・池田政権が実施した世論調査をもとに、政治的暴力に対する国民世論の動向について確認した。また、公安調査庁編『内外情勢の回顧と展望』をもとに、1960~1970年代の治安情勢認識を整理した。併せて、治安対策に関する社会党、民社党、共産党の資料を収集し、論文投稿を準備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本計画は、公文書・私文書等の資料調査にもとづき、1960~1970年代の自民党政権の治安対策を検討してきた。主な調査対象は、国立国会図書館、国立公文書館、東京都立図書館等が所蔵する戦後日本政治関連の資料である。特に、旧警察庁の公文書をもとに暴力犯罪対策と暴力行為防止法案の起草過程を分析できたことは大きい。また、警察庁、内閣調査室、公安調査庁の資料や、政治的暴力に関する自民党、社会党、民社党の資料を併せて検討した。 他方で、令和2年度から令和3年度にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、図書館・公文書館等が利用を制限することで、資料調査の機会は著しく制限された。所属研究機関の秋田大学も、感染防止の観点から県外移動の自粛を要請され、十分な資料調査の機会をとることが困難となった。このためやむをえず、国立国会図書館デジタルコレクション、国立公文書館デジタルアーカイブ、国会会議録、朝日新聞データベースなどによって研究を補完した。また、政府の旧蔵資料や公文書を古書店経由で購入することで資料調査の代替措置とした。 なお、本計画では、米国スタンフォード大学フーヴァー研究所において、戦後日本の治安関係資料を調査する予定だった。だが、新型コロナウイルス感染症の影響により、米国への渡航は制限され、所属機関からも海外渡航を自粛するよう要請があったことから、米国での資料調査を見合わせざるを得なかった。 以上の理由により、本計画はやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
計画3年目の令和3年度は、1960年代の警備・公安警察の活動について、警察庁、内閣調査室(内調)、公安調査庁の各種資料にもとに、自民党政権の治安対策について分析を行った。また、治安対策に関して、自民党のほか、社会党、民社党、共産党など野党側の資料も検討し、論文投稿を準備した。 計画を継続する令和4年度は、引き続き1960年代~1970年代の警察庁、内閣情報室、公安調査庁の資料をもとに自民党政権の治安対策について検討する。警察庁『基礎資料』シリーズ、公安調査庁『内外情勢の回顧と展望』などを中心に調査を行う。また、当時発生した東大紛争、あさま山荘事件などの学生運動について、政権と自民党の情勢認識を再検討する。 令和3年度にかけて、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、国内の図書館等はなお利用制限を継続していた。所属研究機関の秋田大学も、一時期を除いて、感染拡大防止の観点から県外移動の自粛を要請していたことから、資料調査を見送ってきた。令和4年度に入り、県外移動の制限緩和に伴い、国内資料調査を行う所存である。特に、国立公文書館、国立国会図書館のほか、各都道府県の公文書館で調査を実施し、県当局による労働運動や暴力犯罪等への対策について検討を行いたい。 米国は現在もなお、新型コロナウイルス感染症については予断を許さない状況である。ただし、米国へは、ワクチン接種証明、陰性証明を提示することで入国が可能となったことから、調査機関の再検討を含めて、米国での資料調査を計画する所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本計画は、国立公文書館、国立国会図書館など国内外の図書館・公文書館等での資料調査を主な活動としている。令和2年度から令和3年度にかけて、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、図書館・公文書館の利用が制限され、研究活動上の制約が生じた。また、所属研究機関の秋田大学も、感染拡大防止の観点から、一時期を除いて県外移動の自粛を要請したため、県外での調査を控える状況が続いた。同様に新型コロナウイルス感染症を理由として、海外渡航についても自粛せざるを得なかった。こうした事情から、旅費を主として次年度使用額が生じた。 令和4年度は県外移動の緩和に伴い順次、国内の資料調査を実施する。また、米国での資料調査についても、新型コロナウイルス感染症の状況を鑑み、旅程を再検討して計画する所存である。
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