研究課題/領域番号 |
19K01469
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森川 想 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (10736226)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 用地取得 |
研究実績の概要 |
本研究は、ダムや道路などの社会基盤事業における用地取得・住民移転の過程を、事業の受容と移転後の生活再建を目指す行政と市民とのco-productionの過程と捉え、それを通じて環境変化に対応した行政資源配分の在り方や、配分の変動によってもたらされる住民や行政職員への影響を検討することを目的とするものである。 具体的には、スリランカの高速道路事業に伴う用地取得・住民移転の過程を主な対象とし、①人的資源の変動の実態と、政策に関する知識やノウハウの蓄積の在り方の把握、②人的資源の変動の影響の分析、③隣接政策領域との比較を順次実施する。 当初の研究計画に従い、本年度は、このうち①に関して研究を進めた。本研究は、既存の事業で蓄積された経験が他の事業で十分に生かされていないのではないかとの問題意識から出発しているため、特に採用段階の流動性に関して、現地学生の学歴、職業訓練と就職部門の関係等の労働市場に関する基礎的なデータの収集を行うとともに、現地道路事業の用地取得・住民移転に携わった行政職員のキャリアパスについてデータを整理した。 さらなる情報獲得のためにフィールド調査を予定しており、12月にスリランカを訪問した際に、現地との打ち合わせを行ったが、その後のCOVID-19流行発生により年度内の実施は延期せざるを得なくなった。次年度状況が改善次第実施する予定である(計画通り、次年度は住民に対する調査も併せて実施する)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の計画では、①人的資源の変動の実態と、政策に関する知識やノウハウの蓄積の在り方の把握、②人的資源の変動の影響の分析、③隣接政策領域との比較の三つの研究項目のうち、①について本年度と次年度で、②について継続的に行っている調査をどちらかの年度で実施することとなっていた。 スリランカが直面している公的サービス供給における境界条件を明らかにするためには、人的行政資源配分の状況を把握することが前提となる。用地取得・住民移転にかかわる行政職員の変動の実態と人事管理のプラクティスを、道路局における統計や、当該業務を担っていた職員に対するインタビュー調査などにより把握することを試みる予定であるが、今年度収集したデータの状況を鑑みると、特に前者について、労働市場の供給サイド(教育機関等)でも需要サイド(本研究では行政機関側)でも、出身学校等の性質によってかなり分断的にしか統計が存在しないのではないかという懸念を抱くに至った。 詳細は関連行政機関にフィールド調査で直接アクセスすることにより把握しようと考えているが、本年度については調査自体の実施が困難となったため、状況把握が難しいままでとどまっている。次年度状況が改善次第、実施する予定であるほか、オンラインで実施可能な調査設計について検討している。また、計画通り、次年度は住民に対する調査も併せて実施するとともに、今年度は行えなかった研究発表を秋に予定している。
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今後の研究の推進方策 |
研究内容のうち、①人的資源の変動の実態と、政策に関する知識やノウハウの蓄積の在り方の把握については、以上の進捗状況から、本年度でフィールド調査の準備は進められているものの、実際の情報取得や分析は、住民に対する調査含め次年度に持ち越されている。本年度と次年度に実施する予定であった調査を次年度の一年度内に計画的に配分し、スリランカが直面している公的サービス供給における人的資源の側面を把握するのに必要十分な情報を収集したい。 この点で、研究計画の段階では強い意識を抱いていなかったが、近年のPublic Service Motivationや、途上国における公務員の不正行動等に関する研究を踏まえると、行政管理の観点からは、人的資源の量的側面だけではなく、質的側面について着目することも重要だと考えている。本研究が引き継いだ若手研究で実験的アプローチをフィールドで試みているが、行政職員の行動指標についても併せて取得し分析できないか検討する。 また、次年度予定している住民に対する調査では、本研究の鍵概念であるco-productionの観点から、住民の財政的・心理的負担に対する理解がどのように形成され、スリランカにおける道路事業・用地取得過程においてどのような影響を及ぼしたのかについて検討する予定である。この点については、すでに取得しているデータを基に、Eastern Regional Organization for Public Administration年次総会での口頭発表に応募している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はCOVID-19の流行発生により、計画したフィールド調査が実施できなかった。次年度、本年度予定していた調査も併せて2回の調査を計画し、実施する予定である。
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