本研究は、ダムや道路などの社会基盤事業における用地取得・住民移転の過程を、事業の受容と移転後の生活再建を目指す行政と市民とのco-productionの過程と捉え、それを通じて環境変化に対応した行政資源配分の在り方や、配分の変動によってもたらされる住民や行政職員への影響を検討することを目的とするものであった。研究期間の3年間はコロナ禍と重なり、予定していたフィールド調査を実施することができなくなるなど、研究計画の変更を余儀なくされたが、オンライン調査や用地取得・住民移転の過程を模した行動実験などを新たに設計し、人的資源や住民との協働について研究を行った。 行政資源については、特に人的資源に注目し、特に採用段階の流動性について、現地学生の学歴、職業訓練と就職部門の関係等の労働市場に関する基礎的なデータの収集を行った。この結果、政府が重点としている部門のうち、ICT部門に進学する学生は就職に向けたキャリアパスのイメージが曖昧であるのに対して、土木部門に進学する学生は、当該分野に対する個人的関心や社会的貢献を踏まえて進学を希望していることが分かった。 本研究の鍵概念であるco-productionの観点からは、住民の財政的・心理的負担に対する理解がどのように形成され、スリランカにおける道路事業・用地取得過程においてどのような影響を及ぼすのかについて、用地取得・住民移転の過程を模した行動実験や、スリランカの市民に対するオンライン調査を組み合わせて検討を試みた。実験の結果、社会的意思決定の形式によって人々の事業規模や補償への反応は異なることなどが明らかとなったほか、オンライン調査の結果から実験で模した経済的再配分の誘因は用地取得・住民移転の文脈で重要であると認識されていることが確認された。
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