研究課題/領域番号 |
19K01478
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
伊藤 恭彦 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (30223192)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 課税 / 正義 / 所得税 / 相続税 / 累進課税 / タックス・ジャスティス / ヘンリー・サイモンズ / ジョン・ロールズ |
研究実績の概要 |
公正な課税に関する哲学的、理論的研究を進めた。包括的所得概念を構築し、累進型所得税を理論的に定礎した、ヘンリー・サイモンズの経済哲学を改めて研究した。サイモンズは、課税の公正さは最終的には「倫理学的、美学的問題」(経験科学にはなじまない問題)としながらも、現実の醜い不平等を是正するためには、累進度の険しい所得税が公正だとの判断をしていた。社会の不平等の是正=平等化の推進という政策目標があり、それを課税によって効果的に推進するためには累進型の所得税が望ましく、累進型所得税を実行する上で包括的所得概念が必要だという思考過程をサイモンズは踏んでいた。 また累進度の険しい相続税・贈与税を提案しているジョン・ロールズ、ジェニファー・バードポーランの政治哲学も再検討した。ロールズもバードポーランも平等な社会(機会の実質的な平等が保証されている社会)を実現するためには、単に貧困者に対して経済的支援をするだけでは不十分であり、富者の経済的力を削ぐことが重要だと考え、富者に対して重い相続税・贈与税といった富移転税を構想したことを確認した。 欧米の代表的な政治哲学・経済哲学を再検討し、課税の公正さは最終的には課税を通して実現する社会像に依拠していることが改めて確認できた。その意味で課税の公正/不公正は、単独の哲学的論点にはならず、課税を通してどのような社会や社会的価値を実現するのかという論点にたえず立ち返らざるをえないことが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課税の公正基準についての理論的、哲学的研究としてサイモンズの累進型所得税擁護論を手始めに検討する予定であった。サイモンズの経済哲学についての分析を終了し、その成果を論文として執筆した(公刊準備中)。また租税正義(タックス・ジャスティス)と課税の公正基準についての理論的見通しを租税理論学会で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
所得税だけでなく、富移転税、消費税、支出税などのに関して課税の公正基準を租税正義との関係で引き続き理論的に探究していく。当初の予定通り研究活動を遂行していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の文献資料が入手できなかったため。次年度にいは購入できる。
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