研究課題/領域番号 |
19K01478
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
伊藤 恭彦 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (30223192)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 課税の公正 / タックス・ジャスティス / 分配的正義 / 私的所有 / 租税法律主義 / 所得税 / 資産課税 |
研究実績の概要 |
研究期間2年目の2020年度では、1年目に行った基礎的な研究を踏まえ、課税の公正と正義に関する研究をすすめ、いくつかの研究成果を論文、著書として発信した。 2015年から2017年まで交付を受けた科学研究費(課題番号15K03280)の研究成果、すなわちタックス・ジャスティスという規範の全体像を明らかにすることと、課税の公正との理論的な関係を検討した。さらに課税の公正と課税ベースとの関係を理論的に検討した。所得を課税ベースとして累進課税を提唱した、ヘンリー・サイモンズの経済哲学を検討し、自由、平等といった基礎的な価値から所得に対する累進課税が導出される規範構造を明らかにした。また蓄積された資産に対する課税の公正さに関して、ジョン・ロールズやジェニファー・バードポーランの哲学的主張を検討した。資産に対する課税が公正だと判断できる規範的な根拠は、資産格差がつくりあげる力の不平等が社会全体に対して悪しき影響(機会の不平等の発生や経済的力が政治的力に移転するなど)を与える場合である点も明らかにした。 2020年度は課税の根幹である租税法律主義の規範的意義に関しても研究を進めた。政府の徴税権を縛り国民の財産を守る上で租税法律主義は重要な役割を果たしている。他方で市場社会における私的所有権は所有者と所有物との関係ではなく、所有者と所有物との関係を社会的承認する規範と捉えることができ、その社会的承認プロセスの中に分配的正義という規範を位置づけることで租税法律主義の別の重要性が明らかになる。租税はその社会で共有されている分配的正義に従って、財産の分配状態を是正する手段なのである。租税法に従う納税という手続きを通して、社会の財産分配が調整されると同時に各人の財産も社会的に正当化されるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課税の公正に関する理論的、哲学的研究を予定通り進めることができた。研究期間1年目に税法研究者から教示された租税法律主義と正義との関係、所有権と課税との規範的問題についても研究を進展させることができた。 これらを著作(分担執筆)や論文という形で発表することができた。コロナ禍で国内の研究会や学会大会がオンライン開催となったが、多くに参加し最先端の専門的知見を獲得することができた。 以上の点から研究はおおむね計画通りに順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究期間最終年にあたる。研究全体のまとめをし、著作物として研究成果を発信できるように準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究会出張や調査活動のための旅費を使わず、増大するオンライン研究会のためのノートパソコンを購入したため、当初の支出計画を変更せざるをえなかったため。次年度は環境が許せば旅費として執行する予定である。
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