研究期間1年目、2年目の成果を基礎に研究期間最終年にあたる令和3年度において、研究成果の発信(具体的には書籍出版)のための準備を進めた。研究成果は以下の2点に集約することができる。第一に「公正な課税基準」は課税を通じて目指す社会像や社会目標に依存した規範であることを明らかにした。ヘンリー・サイモンズ、ジョン・ロールズ、ジェニファー・バードポーランといった経済学者、哲学者の主張を研究してきたが、それぞれが追求しようとした社会像がどのような課税基準を要請するかを明らかにした。第二に公正な課税基準を含む課税原則をあらかじめ法で定める租税法律主義の意義を再検討した。租税法律主義は国民の財産権や所有権を租税が侵害するから必要とされるというのが通説である。これに足して本研究では所有は社会的承認が必要な社会制度であり、租税を支払うことで分配的正義が実現し、私的所有の正当性が担保されることを明らかにし、租税法律主義は分配的正義の要求をあらかじめ定めたある種の手続きであるとの考えをまとまた。 以上の研究成果、すなわち公正な課税基準の哲学的探究と租税法律主義の規範論的再考を基軸に、社会正義にとっての租税の意義、貧困、格差などの社会問題に対応するための租税の意義を学術書としてまとめる作業を令和4年度は進めた。
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