研究課題/領域番号 |
19K01483
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
三船 毅 中央大学, 経済学部, 教授 (00308800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 政党間競争 / フォーマルモデル |
研究実績の概要 |
私の研究は,交換ネットワーク理論を主に用いて選挙過程のモデルを構築し,データによる実証が目的である.私は,選挙に関する3つの研究課題に対して,フォーマルモデルを用いて研究し,一部ではデータによる実証研究も行った. 第1の研究は,選挙における有権者の投票過程のメカニズムである.経済学,公共選択理論においては,これまで政府の失敗が論じられてきた.選挙は有権者による政治的意志決定であり,民主主義の根幹をなすものである.つまり,この選挙の過程には,本質的に非合理的意志決定を生み出すメカニズムが存在するのかという関心から,研究に着手した.交換ネットワークモデルによる理論的分析からは,完全競争市場としてみた選挙において,政党は 有権者を動員するような形で票を獲得するよりも,「政策と投票の交換」により有権者の票を獲得 することより,選挙において勝利がもたらされるメカニズムが存在するのであることを検証した.これは昨年の理論的研究を進めたものである. 第2の研究は,政党間競争から如何にして政党制が形成されるのかである.まず,デュベルジェの法則を一般化したM+1ルールが成り立つメカニズムを,マルコフ連鎖を適用してモデル化した.モデルによる分析結果は,いくつかの条件がそろえば,有権者の政策選好の分布の形状が何であっても,M+1が成立することを明らかにした.しかし現在では,M+1ルールやデュベルジェの法則が成立している国は少ない.よって今後は,M+1ルールが成り立たないメカニズムを明らかにする必要がある. 第3の研究は政党間競争における投票行動の実証研究である.1976年代から2017年までデータから,21世紀になり格差社会と対外的脅威の拡大により,有権者は「安全保障」で保守的態度を選好しつつ,「福祉・平等」では革新的態度を選好する傾向を示し,政策イデオロギーの空間に歪みを生じさせていることを検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は政党間競争のフォーマルセオリーのモデルを援用して,現代日本の政治過程を再構築し,日本の政党間競争の背後に潜む行動の論理を明らかにして,データによる実証研究を行うことである.政党間競争の典型的なモデルは,ダウンズモデルを踏襲してきたが,それは現実から大きく乖離した状況でのモデル化でしかない.本研究はダウンズモデルでなく,ローマーにより発展させられたウィットマンモデルを踏襲し,現実の政治過程における政党の離合集散とその状況に応答する有権者の態度をより反映できるモデルの構築を目指すために,J.コールマンの交換ネットワークモデルの援用も考えている.しかし,ローマーのモデルは解析的な記述であり,コールマンのモデルは行列による代数的なモデルであり,両者を統合するモデルをどのような方法で記述するかで考察を重ねている.また,コロナ禍は以前と収束をみせないために,研究時間が減少したこともある.
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今後の研究の推進方策 |
政党間競争を記述する伝統的なフォーマルモデルは確率および解析的な記述によるモデルが多い.しかし,私はより動態的な記述が可能であり,かつ直感的に理解しやすいコールマンの交換ネットワークもでるとの融合を考えている.今後はこの両者のモデルを統合して記述する方法を考案し,55年体制移行の政党間競争の変遷の意味を,フォーマルセオリーから理解する.さらに政党間競争のなかでの有権者の行動の変化を実証分析から明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により,研究の進行が大幅に遅れたため.また2021年後半から2022年諸島にかけての半導体の不足により,コンピュータ関連の機器導入が適切にできなかった.2022年度には早々に研究遂行に必要な機器の導入を計る.
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