研究課題/領域番号 |
19K01484
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
杉本 竜也 日本大学, 法学部, 准教授 (30588900)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ケアの倫理 / 脆弱性 / 主体性 / 自立的・自律的・理性的市民 / ケアのデモクラシー |
研究実績の概要 |
令和2年度は、「ケアの倫理」およびそこから派生した「ケアの政治学」に関する研究を行った。とりわけ、注目したのが、以前から政治学の領域において「ケアの倫理」の研究を行い、「ケアの政治学」に関する体系的な著作を発表してきた、ジョアン・トロントの政治理論であった。トロントの政治理論の特徴は、「ケア」という実践を狭義のそれに限定することなく、人間の生の営み自体を「ケア」と捉え、その視点に立って「ケア」の政治的意味を考察している点にある。このような政治理解は、必然的に政治における「主体」像の見直しを要求する。このように、トロントの政治理論の考察を通して、近代政治理論が前提としてきた「自立的・自律的・理性的市民」という「主体」像の問題点を指摘することができた。 同時に、トロントの政治理論の限界についても、明らかにすることができた。それは、トロントの言う「ケアのデモクラシー(ケアリング・デモクラシー)」の具体像の曖昧さである。「ケアの倫理」が文字通り倫理学の範疇に留まっているのであれば、理論の抽象性は許容されうるであろう。しかしながら、これを政治理論へと移植するにあたっては、具体的な政治的・公共的・社会的実践のイメージを描くことができなければならない。この点に関して、現時点において、トロントの政治理論はまだ成功していないと思料される。 上記の通り、2020年度はトロントの政治理論に関する考察と分析を中心に研究を進めてきた。これによって、近現代政治理論が前提としてきた「主体」像の問題点は一定程度明らかにすることができたと考える。しかしながら、それにかわりうる政治主体像の構想については、いまだ研究途上である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、「ケアの倫理」研究の世界的権威であるジョアン・トロントとの交流、そしてAmerican Political Science Association(アメリカ政治学会)への参加・研究者交はかなわなかった(学会自体への参加はオンラインで行った)。 それだけでなく、国内的にも緊急事態宣言の発出等により、外出が制限されて大学の研究室に向かうことがままならなかった。 手持ちの資料や書籍等での研究に励んだが、やはり限界があり、結果的に著しい遅滞を招いた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は前年度の研究遅滞を取り戻すべく、より一層研究を積極的に推進していきたい。しかしながら、本年度も新型コロナウイルス感染症の影響は大きいと予想され、ジョアン・トロントとの研究交流やAmerican Political Science Association(アメリカ政治学会)への参加はきわめて難しい。そのため、研究方法を文献研究を中心としたものに切り替える必要があると考えている。また、研究者との交流方法も、オンラインの活用等、代替措置を講じて、研究の促進を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、研究交流や学会出席のための海外渡航が不可能になった。それだけでなく、国内においても、緊急事態宣言の発令により、外出に制限がかかり、大学の研究室に向かうことが困難となり、研究活動の推進およびそれに関わる研究費用の精算等に支障が生じた。それらの理由により、次年度使用額が発生した。 今年度以降は既述の通り研究手法の見直しを行うことによって、予定通りの研究費の使用を心がけたい。
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