研究実績の概要 |
本研究は(1)戦後日本の首相演説は、どのような概念メタファー(Conceptual Metaphor)(e.g., Lakoff, 1993; Lakoff & Johnson, 1980, 1999, 2003)による認知フレーム(cognitive framing)を形成して有権者に支持を訴えたのか、(2)概念メタファーにより形成された認知フレームはどのような通時的変化を経たのか、を検証する。各首相演説において用いられたメタファーのデータベースを作成し、6つの概念メタファー領域群(A)旅や経験、動きに関わる領域群、(B)擬人化に関わる領域群、(C)建物や構造に関わる領域群、(D)自然に関わる領域群、(E)戦いや競技に関わる領域群、(F)ビジネスに関わる領域群に分類した。軽量分析には限界があったため、2022年、2023年は、神話分析、物語分析の手法を用いた質的分析へと手法を変更して行なった。その結果、メタファー使用の変化から、物語の変化、規範的価値観の変化を通時的に捉えることができた。同時に、既存の文献研究から、各メタファー領域群に現れる物語をまとめた結果、共通の物語が繰り返し語られていることが示された。その多くは、各首相の政治アイデンティティとして解釈できるが、同時に時代(経済、政治、社会的要因)による変化とも捉えられる。本年は、これらの結果をまとめるに際し、データ処理の改善を試みた。神話分析、物語分析の手法は多岐に渡るが、実証研究として信頼性の高い(再現性が高い)手法が望ましい。そのため、コーディング・ルールをより精緻なものに変更した。また、メタファー、物語研究領域の先行研究をまとめ、それらとの整合性を重視した。本年度は、最終年であるので、これらの結果を、論文としてまとめて投稿したい。その際には、なぜこのような概念メタファーの変化が起こったのかを考察し、論じていく。
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