研究課題/領域番号 |
19K01488
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
山田 竜作 創価大学, 国際教養学部, 教授 (30285580)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カール・マンハイム / 自由のための計画 / ムート / 計画的思考 / アーキタイプ |
研究実績の概要 |
英国でのカール・マンハイムがキリスト教知識人サークル「ムート」において展開した宗教論の検討を進めた。「ムート」において神学的な議論が中心になる中、マンハイムは世俗的な社会学者として「自由のための計画」論を展開しようとする際、社会学的思考の重要性を説き、それと神学的思考の協働を促した。この文脈の中でマンハイムの1943年の戦時論集『現代の診断』を読み直すと、彼の「戦闘的民主主義」にしても「計画化社会」の観念にしても、具体的に当時の英国知識人に対して書かれていたことが見えてきている。 従来、『現代の診断』第7章におけるマンハイムの宗教論はほとんど研究がなされてこなかったが、近年になって進みつつある「ムート」研究において言及されることが増えつつある。しかしこれらの研究の難点は、ムートにおけるマンハイムの言説を彼自身の思考法に即して読み解く努力がなされていないことにある。ゆえに私は当該年度においては、これまでの大衆社会論および計画論の検討の延長上にマンハイムの宗教論を解読しようと試みた。中でも、マンハイムが大衆社会の再建としての計画において重視したのが、抽象的・形式的な倫理ではなく、具体的な「実質的倫理」であり、生活に根差した倫理を形成するために宗教に期待する中で着目したのが社会心理学的な「アーキタイプ」であることを明らかにした。アーキタイプ論は「ムート」に対して重要な議論のテーマを提供することになり、「ムート」メンバーの1人、H. A. ホッジスなどがマンハイムの問題提起を受けて詳細にアーキタイプを論じることとなった。 以上が当該年度における主要な研究である。なお、(1)マンハイムの思考法についての日本語論文1本、(2)彼の計画的思考についての英語論文1本、(3)彼の宗教論についての日本語論文1本を執筆し、(1)と(3)は2021年度中の出版が決定されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
世界的なコロナ禍のため、2020年度に予定されていた世界政治学会IPSAでの発表が1年延期となっている。また同時に、さらなる資料収集のために訪問予定だった英国リーズ大学およびダラム大学にも行ける状況になかった。過去数年の間に英国で収集した資料を読み込む作業も、本務校におけるコロナ感染対策のためのオンライン授業に対応するために時間を費やし、十分に進んでいるとは言い難い。
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今後の研究の推進方策 |
本来であれば2021年度には、在外研究で1年間英国カーディフ大学に滞在予定であったが、コロナ禍のため2022年度に延期されている。ゆえに2021年度は、すでに手元にある資料を読み進める中でマンハイム自身の計画論の諸要素(特に権力論など)を検討することを優先する。その上で、次年度の英国での在外研究を見越して、マンハイムの周囲の英国在住知識人たち、特に「ムート」メンバーのJ. H. オールダムや、クリストファー・ドーソン、フレッド・クラークら、またA. D. リンゼイなど同時代人の知識人の諸議論に視野を広め、1930~40年代英国の「文化の危機」と「文化の民主化」についての議論の背景という、現代史的な考察へと研究を進めて行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年7月に世界政治学会IPSAで発表のため、ポルトガルのリスボンに参る予定だったが、コロナ禍のために学会自体が1年延期になり、学会出張のための航空代や宿泊費などの支出がなくなってしまった。2021年度に延期された当学会はオンライン開催になるため、やはり海外出張の予定はない。英文で書かれた学会発表原稿の英文校正のために使用する他、20世紀英国の現代史、キリスト教(会)史、思想史等に関する書籍購入をする予定。
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