研究課題/領域番号 |
19K01488
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
山田 竜作 創価大学, 国際教養学部, 教授 (30285580)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カール・マンハイム / 自由のための計画 / ムート / T. S. エリオット / クリストファー・ドーソン / A. D. リンゼイ |
研究実績の概要 |
本務校より在外研究の機会を得、英国カーディフ大学法学・政治学部に客員研究員として11か月滞在した。同大学の政治理論・政治思想史を専門とする研究者と交流し、英国時代のカール・マンハイムの著作の1つ『現代の診断』の読書会を数回に渡って行なった。その中で、英国の知識人の目からマンハイムの議論がどのように見えるかさまざまな角度から知見を得ることができ、彼の「自由のための計画」論が英国でどのように受容されたか・されなかったかの一端を知ることができた。 まず第1に、マンハイムが「現代が大衆社会であることを英国人に理解させること」に困難を感じていたことを著作で表明しているが、彼が積極的に参加したキリスト教知識人グループ「ムート」においては、広義の大衆社会論の諸論点を問題視していたことが明瞭になった。ただしマンハイムが、英国もドイツやイタリアといったファシズム国家と同じ社会構造を持つゆえにファシズムに陥る可能性が否定できない点を問題にしたのに対して、他の「ムート」メンバーはむしろ、世俗化と機械文明化が進む中で人々が信仰と伝統を失って文化水準が下がることを問題視した、というように力点の置き方の違いも明らかになった。 第2に、マンハイムと同様に大衆社会の問題を認識していた「ムート」メンバーも、それに対する処方箋としての「計画」には必ずしも賛同しなかった面がより明らかになった。特に T.S. エリオットとクリストファー・ドーソンは、マンハイムが「文化を計画しようとしている」と認識し、文化領域への人為的な介入を厳しく拒否した。また、「ムート」に間接的に関わっていた A.D. リンゼイは、現代民主主義の問題を「大衆」という言葉で議論するマンハイムにエリート主義的傾向を見出し、それに対して批判的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
在外研究を通じて、英国人の視点からはマンハイムの「自由のための計画」が大陸的な合理的すぎる構想と見えるという点を、かなりの程度理解することができた。その視点から、マンハイムの著作や議論が英国でどのような解釈を生んだか、また彼の構想に対して英国知識人が示したさまざまなリアクションがなぜそうしたものだったか、等々が以前よりも理解できるようになってきた。 そして、これまでの研究を一定の形にまとめるにあたり、「ムート」に関係する全メンバーの議論をくまなく検討するのでなく、誰を優先的に考察すべきかが絞れつつある。エリオット、ドーソン、リンゼイらを主たる考察対象とすべきことが見えてきたと同時に、彼らに関する先行研究をかなりの程度入手することができている。
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今後の研究の推進方策 |
在外研究で得た知見、特に大衆民主主義に関するマンハイムとエリオット、ドーソン、リンゼイとの見解の相違について、学会発表する予定である。さらには、これまでの研究で公にしてきた諸論文や学会発表原稿などを再整理して、1冊の著書にまとめる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
在外研究中のため、本来は資料収集のため英国各地の大学図書館等に参る予定だったが、コロナ禍明けで人々の移動が一気に増加するとともに、物価上昇に伴うストライキの頻発により、交通機関がほぼ恒常的に混乱状態にあった。そのため、資料収集のための旅費の出費は最低限に留まった。それ以外の支出はもっぱら日本国内における書籍購入であったため、かなりの残額が生じることとなった。それゆえ研究期間を1年延長し、まだ入手できていない資料を収集しに渡英する計画である。
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