研究課題/領域番号 |
19K01490
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
野田 遊 同志社大学, 政策学部, 教授 (20552839)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 行政体制 / シェアードサービス / ハイブリッド・ガバメント / 広域連携 / 地方自治 |
研究実績の概要 |
人口減少に適応した自治体の効率的・民主的な行政体制再編のフレキシビリティ要因を把握するため、2019年度は米国自治体調査と国内自治体調査を行った。米国自治体調査においては、財政状況が厳しいミシガン州デトロイト周辺自治体(Lathrup、Saginaw、Southfieldの各都市)とロサンゼルス周辺自治体(Santa Ana市、ロサンゼルス統合学校区(LAUSD))を対象としてインタビューを実施し実情を把握した。加えて、カナダの自治体連携組織であるCommunity Metropolitan Montrealにもインタビューを行う機会があった。これらの自治体の執政形態や財政状況、社会的環境、首長等による政治的リーダーシップ、政策対応能力、広域自治体の補完状況のほか、政府-市民関係について把握した。 財政改善のためのフレキシビリティ要因としては、カウンシルマネージャー制という執政形態が、人員調整や政策の優先順位付けなどのさまざまな面で効率的改革に寄与していることがわかった。あわせて、政府ー市民関係において、市民とのアカウンタビリティをいかに確保するかが重要な課題となっており、市民参加型の予算制度を導入する事例もあった。さらに、ほとんどの自治体では、他地域とのシェアードサービスの展開(カウンティ政府からの補完を含む)により公共サービスの維持を図っていた。 国内は京都府や愛知県内の自治体への調査を行った。京田辺市と枚方市の間で設立された枚方京田辺環境施設組合では、連携により財産保持、実効性、モニタリング、責任の所在明確、執行権限による効率的実施というメリットがあることがわかった。米国自治体の事例とは異なり人員整理や政策の優先順位付けは臨機応変に対応が難しく、その主たる理由は制度上の問題であることがわかった。またアカウンタビリティ強化の視点はやや希薄であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画のとおり2019年度は米国や国内の自治体、自治体連携組織に対するインタビュー調査を実施した。これらの調査によって、米国における自治体の財政逼迫に対する対応方法として、非常勤職員の人数調整や事業の選択と集中を行っていることがわかった。こうした対応が可能である背景としては、組織風土の形成にカウンシルマネージャーの機動的管理能力の高さなどのフレキシビリティ要因があることも明確になった。あわせて、市民との間のアカウンタビリティの強化に向けては、パブリックヒアリングや広報誌による情報提供以外に、市民参加型予算を導入しているところがあり、市民による行政の統制のあり方について、実践的に模索している自治体もあった。 自治体連携組織においては、構成自治体からの理事により組成された理事会が今後の地域のビジョンを策定し、そのもとに政策調整を行っており、政策の決定の調整をするが、実施は個々の自治体という枠組みによる緩やかな連携が地域全体の発展に寄与する側面も有益な視点であった。 こうした結果は、自治体の財政逼迫からの脱却の背景や広域連携をふまえたハイブリッド・ガバメントについて、特に民主性の観点からのさらなる考察を要請するものであった。具体的には、市民にどのように情報を提供するか、また、市民の意向をいかに政策に反映させるか、自治体間の連携条件は何かといった観点が求められる。 なお、地域別のハイブリッド・ガバメント像の把握のために、国内で年度末にアンケートを実施する予定であったが、新型コロナ問題で実施できる状況ではなくなった。このようなことから、当初予定していたアンケート調査の設問項目をさらに吟味するとともに、実施できるタイミングを2020年度の適当な時期に見極めることとした。
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今後の研究の推進方策 |
インタビュー調査については、国内外ともに、以前、フレキシビリティ要因に関する多様な事例が存在するため、継続してそれらの事例に関する情報収集を進める。特にオーストラリアの自治体等に関する情報はいまだ文献調査が中心であるため、充実した内容になるように実施したい。ただし、新型コロナウィルス問題が収まった段階での実施となるため、関連調査報告書は先行研究の整理など、事前の準備作業は徹底しておくことにしたい。また、アンケート調査についても新型コロナウィルス問題が収まった段階での実施が適切かどうかを熟慮する。アンケートの質問項目については事前に十分に吟味する。そのうえで、人口減少下の自治体の財政逼迫への対応や自治体連携に関する民主性と効率性を探究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アンケート調査は、高い回収率とより本質的な情報収集が必要と考え、設問項目を吟味し、当初、年度末までの適当な時期にアンケート調査を実施予定であった。ところが、新型コロナウィルスの問題が深刻化し、アンケートを実施する時期としてふさわしくなくなり、実施を断念した。あわせて、アンケートの設問項目については、さらなる先進自治体調査の推進とその結果の検討をふまえ、より深度化させていくことも重要と考えた。このことから、2020年度の適当な時期に、アンケート調査の実施を検討することとした。
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