研究課題/領域番号 |
19K01493
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
小関 素明 立命館大学, 文学部, 教授 (40211825)
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研究分担者 |
吉田 武弘 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (30772149)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 終戦工作 / 木戸幸一 / 錦旗革命 / 戦後民主主義 / 憲法改正 / 内閣の衆議院解散権 / 国家公務員制度 / 二院制度 |
研究実績の概要 |
小関素明は次著『日本近代主権と戦争「革命」』(仮題、470頁程度)の原稿を完成させた(5月7日出版社へ送付。2020年11月頃刊行予定)。本書は序章と第一部「戦争の利用と『錦旗革命』」(全4章)、第二部「『錦旗革命』の投影と戦後日本」(全4章)よりなる。第一部は「近代日本の公権力と戦争『革命』構想(『立命館大学人文科学研究所紀要』117、2019年1月)を加筆・再構成したものであり、第二部は主として2019年度中に書き下ろした新稿である。内容的には第一部は木戸幸一を中心とした終戦工作の解明であり、第二部はそうした終戦工作が敗戦後日本の公権力の性格をどのように規定したのかということを、日本国憲法改正作業、内閣の衆議院解散権、国家公務員制度の検討を通じて明らかにしたものである。 吉田武弘に関しては以下の論文、口頭報告のほか書評がある。 ①「貴衆両院関係の出発-議会制度導入過程における二院制論の展開」(『ヒストリア』 227、pp166-193、2019年)、②「大正期における政党政治と貴衆両院関係の展開」(『歴史の理論と教育』153、pp3-18、2019。年)、③「貴衆両院関係の出発―議会制度導入過程における二院制論の展開」(大阪歴史学会2019年大会、於大阪、2019年6月30日)。これらの研究は、近代日本の議会政治・政党政治において二院制がどのように機能したのかの検討を通じて、戦後の民主主義の制度設計上における議会主義構想を展望したものである。 小関は戦後の公権力を執行権力と議会との対峙から、吉田は下院と上院との相互牽制のあり方から解明したものであり、いずれも戦前・戦中の検討を通して戦後の民主主義の制度設計を展望するという実践的研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者の次著の内容は本研究課題をかなりの程度カバーするものとなっており、この完成原稿の入稿は研究課題の達成に向けた一つの節目である。研究はおおむね順調に進捗しているといえる。 ただコロナウィルス流行の影響を蒙り、今年度末2月~3月に予定していた研究代表者、分担者自ら、もしくはアルバイトを雇用して行う予定であった東京(国立国会図書館憲政資料室)への資料調査を断念せざるを得なかったのは予想外の痛手であった。これによって本研究課題の重要な目標である「佐藤達夫関係文書」の調査ができず、研究代表者の著書の中にその成果を盛り込むことができなかったのは、心残りである。幸い佐藤達夫の直接の上司である入江俊郎(法制局次長)の資料(マイクロフィルム「入江俊郎関係文書」)が立命館大学に所蔵されているので、それでかなりの程度おぎなうことが出来た。佐藤が実務的にまとめたことは入江によって掌握され閣議にもちこまれているようなので、入江を押さえておけば内容的には大きな遺漏はないかと思われる。「入江俊郎関係文書」の必要箇所は概ね通覧し、複写した。それは議論の輪郭を描くのに有効であった。 また当初予定していなかったことではあるが、内閣の衆議院解散権をめぐる対立を検討するために、国立国会図書館デジタイルアーカイブで衆参両院本会議、委員会議事録の必要箇所を通覧、分析したのも大きな成果であった。 これは研究代表者と分担者が議論をする焦点としても有効であった。戦後日本は形式上議会を重視する建前を取りながら、実際は議会を牽制する策を講じている。研究代表者はそれを内閣の衆議院解散権と国家公務員の身分保障から、研究協力者は第二院(上院)の機能から検証しようとしている。 本年度の模索によって、戦後の公権力の特性を明らかにするためには、これら双方向からの分析が必要であることを再確認した。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題達成のための視座と作業目標はほぼ定まっているので、引き続き作業を継続したい。研究代表者は、前年度新型コロナウィルス流行のために断念せざるを得なかった「佐藤達夫関係文書」の調査を可能なかぎり早急に開始したい。大部の憲法改正関係資料のなかから、内閣の衆議院解散権にかかわる資料を精査し、「入江俊郎関係文書」に含まれていないものがどの程度あるかを早急に確認したい。 そしてそれらをもとに、次著とは別に、内閣の衆議院解散権の問題に特化した個別論文を書き上げたいと考えている。 研究分担者も同様にコロナウィルスによって阻まれた上院(貴族院・参議院)関係史料の調査を再開し、より緻密な上院の機能分析を行い、二院制度に関しての精度の高い研究成果を完成させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス流行により、研究代表者、研究分担者、アルバイト雇用による東京への資料調査が不可能になり、それによって研究旅費(交通費、宿泊費)、資料複写費、資料整理のための人件費が執行できなかったため。 今年度は東京への資料調査が可能になりしだい、昨年度に積み残した国立国会図書館(東京)での資料調査を行い、さらに今年度独自の資料調査を継続したい。目的地は同様に国立国会図書館が中心となるが、一部補足的に外務省外交史料館(東京)、国立公文書館(東京)での調査も必要となる。それにともなって資料複写費や資料整理のための人件費が必要となる。 また、当初の予定通り、議会史や政治学関連文献の購入にも一部研究費を充当したい。
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