研究課題/領域番号 |
19K01493
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
小関 素明 立命館大学, 文学部, 教授 (40211825)
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研究分担者 |
吉田 武弘 立命館大学, 文学部, 授業担当講師 (30772149)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 終戦工作と木戸幸一 / 近衛文麿「改正綱領」 / 内閣の衆議院解散権 / 国家公務員制度 / 憲法改正 / 戦争詩 / 高村光太郎 / 野口米次郎 |
研究実績の概要 |
本科研費を得たことによる最大の研究成果は、2020年度に研究代表者が申請課題と内容的に密着した単著『日本近代主権と「戦争革命」』(日本評論社、2020年12月、488頁)を公刊できたことである。これによって本研究計画が目標としていたことの骨格となる箇所は達成された。同書ではこれまで終戦工作として注目されてきた策動を、開戦過程をも視野に入れて「戦争革命」として広く捉え、それを経由したことが敗戦後の統治権力の性格をどのように規定したのかという点を分析した。 その後研究を推し進めるにつれて、同書で明らかにした「戦争革命」の影響は敗戦後の統治権力の性格だけでなく、日本社会にさらに大きな影響を及ぼしたということを否応なく認識せざるを得なくなった。その最たるものは、国民の精神に対する影響である。戦争を内化するということは、戦争を「不可避」で「不可逆」なものとして受容するということである。そこでは戦争の「大義」がさまざまな面において強調され、国民への浸透が図られる。 では国民はそれをどのように受けとめたのか。私は上記拙著の執筆過程で、この点の解明が不可欠であることを痛感し、2021年度初頭より、手はじめとして日米開戦への国民の反応を明らかにすべく、文学者や評論家の日記、論説の類いを収集し、それらをもとに何とか拙稿「天皇制と『大東亜戦争』関与の精神構造-負い目と精神史精神史ー」(『立命館大学人文科学研究所紀要』129、2021年12月、7~89頁)を纏めた。これによって今後の研究の方向性と見通しはつけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度までの作業によって今後めざすべき方向性は明らかになり、いまだ相当多くの史料を読破せねばならず、今現在、「大東亜戦争」下と敗戦直後に執筆されたいわゆる戦争詩や詩論などを読み進めている。2022年度4月段階でおおむね予定している量の40%ぐらいは読破できたが、まだ重要な作品で読み残しているものも多い。 2022年度秋頃までにまず残された必要史料を読み終え、この研究テーマを一書にまとめるための準備をしたいと考えている。その前段の作業としてもう1本雑誌論文にまとめるか、それともその時間を節約して史料を読み進める作業を優先させるか考慮中である。 コロナウィルスの流行は未だ完全には鎮静化していないとはいえ、これまで順延してきた東京への史料調査も事情が許せば再開したい。
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今後の研究の推進方策 |
全体の構想として、知識人たちが「大東亜戦争」へ関与していった精神構造を分析するに際しては、彼らはどの程度戦争に迎合し、どの程度抵抗したか、といった単調な分析は意味をなさないので避けたい。表現の自由を制約する戦争や戦時下の政策、環境は表現者としての彼らに大きな苦難を与え、彼らを卑屈にもした。しかし、この苦境によって、知識人たちの表現者としての感覚はむしろ研ぎ澄まされる面が存在したのではないかということを考えてみたい。それはまた彼らに、いわゆる民衆の存在を自覚させ、それとの関連で自らの表現の作用と責任を強く意識させる機会となったのではないか。この両者の混淆の中から戦時下の気運や思潮が創り出されていく。 それは戦争への突入を「壮挙」と認識するとともに、戦争に傾倒していくことを「自然」と受けとめる一見矛盾した気運となって表在化したため、明晰に分析するにはかなり困難がともなう。この気運を抽出し、描出することに取り組んでいる。この課題に向けて、日本浪漫派、特に保田與重郎を分析に組みこむべきか否か、現在考慮中である。判断は保田與重郎全集を読んでからにしたいが、何分全集の分量が45巻と多く、悩ましい。 そして、自著の完成に向けて、こうした気運が敗戦後どのような帰趨をたどったのかについての見通しまでを得ることが2022年度の目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究テーマにそって研究を続け、一書にまとめた段階でそのテーマがさらに解明すべき重要課題を内包していることに改めて気づいたこと、そしてそのテーマに着手して序論的な論稿を公刊した後に、同じテーマはさらに入念な史料収集とその解読に時間をかけて取り組まなければならない必要性を痛感したことが最大の理由である。 残余の資金は、研究の円滑な推進に必要な備品の購入および新たに気付いた論点を補う上で必要な史料の購入費に充当したい。
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