研究課題/領域番号 |
19K01494
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
岡本 哲和 関西大学, 政策創造学部, 教授 (00268327)
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研究分担者 |
石橋 章市朗 関西大学, 法学部, 教授 (40368189)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インターネット選挙 / 通常化・平準化 / ネット政治 / 政治情報 / 投票行動 / メディア政治 / 日本政治 / 情報政治学 |
研究実績の概要 |
2020年度は、(1)2019年7月21日に実施された参議院通常選挙時に実施した有権者を対象するインターネットでの選挙情報接触とその影響についてのアンケート調査結果の分析、(2)同参議院通常選挙時に実施した候補者を対象とするインターネット利用の状況調査の分析を、当初の計画のとおり行った。 (1)の有権者を対象する調査結果からは、候補者ウェブサイトでは16.3パーセント、ツイートでは7.2パーセント、そしてFacebookでは4.6パーセントが、それぞれ見た、あるいは読んだと回答していることが示された。これを含めた調査の結果は、2020年度日本政治法律学会第5回研究大会(オンライン開催)で報告された。 また、参院選が実施された2019年は「亥年」であったため、地方選挙の実施とインターネットでの選挙情報接触との関連についての検討も試みた。分析結果からは、地方選挙が実施された都道府県の有権者は、実施されなかった都道府県の有権者と比較して、参院選の選挙情報に接触する確率が低いことが示された。これは「選挙疲れ仮説」を支持する結果である。これらの結果は、2020年度日本政治学会研究大会(オンライン開催)で報告された。また、同報告ペーパーを基にした論文を2021年度中に刊行する予定である。 (2)の候補者調査では、現職候補者と比較して新人候補者のインターネット利用率が低いこと、自民党・立憲民主党の候補者と比較して、中小政党・無所属候補者のインターネット利用率は低いこと、ただしツイッター利用についてはやや異なる傾向が見られること等が明らかになった。2019年参院選での候補者調査の結果については、研究代表者が2000年衆院選以来実施してきた国政選挙候補者調査の結果とのマージを行った。これにより、通常化・平準化の規定要因を長期間にわたって検証することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、2019年参院選時に、インターネットでの選挙情報との接触が及ぼす影響についての有権者調査及び参院選候補者によるインターネット利用実態についての調査を問題なく実施することができた。2020年度に調査結果の分析に取り組めるようになったことも、当初の計画通りである。もっとも、2020年度は新型コロナ禍の影響もあり、議員等を対象とするインタビュー調査の実施はできなかった。ただし、学会の研究大会がオンラインで行われたこともあり、研究成果を2つの学会で報告して、他の研究者との意見交換も行うことはできた。 「研究実績の概要」でも述べたように、2020年度では2019年参院選時に実施した調査結果を用いた分析を行い、一定の成果を出せたため、当初の計画に沿う形で研究が進行しているといえる。加えて、有権者調査を基にした分析によって「選挙疲れ仮説」を支持する結果を示したことで、これまでの「亥年現象」についての研究に対して一定の貢献をなし得たとも考える。 候補者を対象とするインターネット利用の状況調査に関するデータ整備作業と分析についても、おおむね計画に沿う形で進められている。とりわけ、研究代表者が2000年衆院選から2017年衆院選まで実施してきた国政選挙候補者調査の結果と、2019年参院選候補者調査の結果とをマージして、計14の選挙における候補者のインターネット利用の実態を検証できるようになったことは、研究遂行上大きな進歩といえる。これによって、日本の候補者によるインターネット利用は他の先進諸国と比べて遅れていたとは言えないこと、また、インターネット利用率では通常化の進行を示す傾向が一定程度見出されたが、ツイッターの利用についてはウェブサイトおよびフェイスブックとはやや異なった傾向が見られる等の知見も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においても前年度までと同様に、2019年参院選における有権者調査データと候補者によるインターネット利用状況調査結果データを用いた分析によって、さらに補足的に我々が科研費等によってこれまでの選挙で行ってきた調査データの分析によって、インターネット選挙に係る「通常化」と「平準化」を生じさせる要因についての探求を続ける。基本的には、研究の推進方策については変更はない。 さらに、2021年度中には確実に衆議院選挙が行われる。当初の予定どおり、そこでは有権者を対象としたアンケート調査を実施する。これは、候補者による情報発信から有権者が受ける影響について政党や候補者で違いがあるかどうか(たとえば、大政党から発信された)を検証するためである。研究代表者らがこれまで実施してきた有権者のネット情報接触についての衆議院議員選挙調査では、政党もしくは候補者によるウェブサイト、ツイッター、Facebookのいずれかに接触経験を有する人を選び出し、そこから無作為抽出でサンプルを抽出してきた。それに対して、今年度に予定されている衆議院選挙調査でのサンプル数については、世代及び性別別に人口比に応じた割付けを行う予定である。一般的なインターネット利用がかなり進んだこと、またサンプルのバイアスをより少なくする必要があることが、この方法を用いる理由である。この方法は研究代表者らが2019年参院選時に実施した調査でも用いられているため、両調査のより厳密な比較検証が可能となる。 2021年度中の衆議院選挙では、候補者によるインターネット利用実態についての調査も予定どおりに実施する。ウェブサイト、ツイッター、フェイスブックを中心に利用実態を調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度中には衆議院が解散され、総選挙が開催される可能性があった。当研究では、国政選挙ごとにインターネットでの選挙情報との接触が及ぼす影響についての有権者調査及び候補者によるインターネット利用実態についての調査を行う必要がある。そのため、2020年度においても調査に係る費用支出についての準備を行っていたが(サンプルの抽出、調査票の作成、調査会社の選定等)、政権交代や新型コロナ禍が重なり、衆議院解散のタイミングについての予測を行うことが極めて困難な状況にあった。年度内にいつ総選挙が実施されても対応できる態勢を整えた上で状況を見守っていたが、結局のところ年度内に衆議院の解散が行われなかった。それゆえ、今年度には調査に係る支出が行われなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。 今年度については、2021年10月21日が衆議院議員の任期満了日となるため、年度内に確実に衆議院解散・総選挙が実施される。次年度使用額については、衆議院議員選挙における有権者調査及び候補者によるインターネット利用実態についての調査のために確実に支出される。これによって、研究計画は予定どおりに遂行される予定である。
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