本研究では、北東アフリカ地域の国際関係の近年の変容を「アフリカの角」(Horn of Africa)と従来概念化されてきた地域の再編過程と捉え、新たなダイナミズムの中に展開していることを分析することを試みようとする研究であり、「アフリカの角」地域の特徴を歴史文脈の中に明らかにした上で、国際政治学と比較政治学の分析手法を架橋しながら、今日的な変容のダイナミズムを各国の政治体制や国内秩序の精緻な分析を踏まえて明らかにする作業を実施してきた。 特に、研究期間中に内戦状態に陥ったエチオピア情勢については、詳細な検討を実施した。エチオピアでは、2020年実施予定であった選挙とその延期を背景として、エチオピア連邦政府と特にエチオピア北部のティグライ人との間には強い緊張関係が存在し、この緊張関係は、ティグライ州にある連邦政府軍の軍事施設に対するティグライ人民解放戦線(TPLF)によると疑われる攻撃を根拠として、アビイ首相が、2020年11月4日に「法執行を目的として、ティグライ州を標的とする軍事作戦を開始する形で、現在に至るエチオピア紛争につながる結果となった。紛争勃発後、一端は11月末までの段階でティグライ州の中心都市メケレを連邦政府軍が制圧した。しかし、紛争の収束の見通しは必ずしも立っておらず、「アフリカの角」地域の中心的な国家であるエチオピアが、新たに「崩壊国家」となる可能性も完全には払拭されず、国際社会からみても大きな懸案材料となっている。しかも、ティグライをめぐって始まったエチオピアの紛争は、「アフリカの角」地域をめぐる重要な課題となってきたグランド・エチオピア・ルネッサンス・ダムにも関連する影響する動きを見せている。 そして、「アフリカの角」地域の不安定性は、中東諸国の関与によって、きわめて大きく揺り動かされている側面があるという地域間の関係の深まりを検証する作業を実施した。
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