研究課題/領域番号 |
19K01501
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
友次 晋介 広島大学, 平和センター, 准教授 (90622019)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 原子力平和利用 / 科学外交 |
研究実績の概要 |
日本が戦後に国際復帰する中で、科学外交の一方策として、ラジオアイソトープ(RI)の訓練提供を考えていたことが、研究の進展によっていっそう詳細に明らかになった。例えば、1955年のバンドン会議において「原子力平和利用」への期待が高まっていたことを契機に、日本の外務省が日本学術会議の助言も得ながら、アジアへの協力を模索していたことがより明瞭になった。他方、前田正男(自民党)、松前重義(社会党)といった日本の政治家たちは、アメリカの「平和のための原子力」キャンペーンに刺激され、日本独自の科学外交の展開を求めるようになっていった。こうした、日本の科学外交としての原子力協力は、1961年9月開催の第5回国際原子力機関(IAEA)理事会における、アジア地域のためのラジオアイソトープ訓練センターの開所の提案(運動するも挫折)、1963年3月の「アジア太平洋原子力会議」の開催で一つの区切りを迎える。本研究の初年度についてはまた、IAEA Archivesにおける史料調査を行ったほか、1978年に日本が加盟した「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に関連して、外務省で関連業務を行っていた職員(匿名)、並びにフィリピンにおける原子力関係者への聞き取りを行い、被援助国側が日本の援助をどのように見ているのか、また日本がアジアにおいて、いかなる地位を確立したのかを整理、分析した。その結果、日本の原子力協力の運営においては、科学者より外務省が前面に出ている点、しかし韓国などと比して存在感が大きくは示されていない点などが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィリピンの研究協力者、Fabe氏との連携に基づく同国原子力研究所のインタビュー調査、外務省外交史料館における史料調査、並びにIAEA Irchivesにおける史料調査、さらには研究協力者である野呂尚子氏との連携に基づく「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」関係者へのインタビュー調査、日本原子力研究開発機構(JAEA)のOBへのインタビュー調査が実施できた。政治とのかかわりの中で、日本の医学者がアイソトープ(RI)についてどのようにとらえていたのか、また、アジア諸国からの期待にもかかわらず、日本のRCAへの参加時期が1978年までずれ込んだ理由など細かい部分については、より一層の検討が必要と思われるものの、本研究が初年度の最優先課題として挙げていた、1950~60年代の日本のRIのアジア諸国への訓練提供に関する政策過程と、国際政治上の背景については相当程度、明らかにすることができたと考える。加えて、日本の科学界が抱いていたRI利用の国際協力上の含意に関する理解についても、多くの知見を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
1.日本の医学者のアイソトープ(RI)利用に関する歴史的、政治的背景、2.原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)の国際関係上の位置づけ、及び日本の関与についての考察を進める。また、3.近年の日本の「アジア原子力協力フォーラム(FNCA)」を通じた科学外交に関する研究を実施して、論文に纏める。こららの目的のために、アメリカの各大統領図書館、豪国立公文書館における史料調査や、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアの原子力当局者へのインタビュー調査を可能な限り実施する。新型コロナウィルス感染の世界的蔓延によって現地における史料調査やインタビュー調査が困難であれば、多様な手段を模索、検討して調査を進める。当該地域のアーキビストや研究者に協力を求めたり、インターネットの会議システムを活用したりするなど、柔軟で多様な研究方法を考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アイゼンハワー大統領図書館及び、ジョンソン大統領図書館における史料調査、ならびにタイ、ベトナムでの原子力当局者のインタビューが実施できなかったことが最大の原因である。繰り越し分は、本年度(令和2年度)に研究代表者が予定している、アメリカの各大統領図書館、豪国立公文書館における史料調査、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシアの原子力当局者へのインタビュー調査に充当する。
|