最終年度においては、まず岩波書店発行の『岩波講座 世界歴史』シリーズ第18巻『アフリカ諸地域 20世紀』に「パン・アフリカニズムとアフリカ―解放の思想と運動」と題する論考を掲載した。シリーズ初めてとなるアフリカ巻に、国境を超えた人種集団である黒人たちの「自決権」獲得の試みについての論考が掲載されたことは意義深い。 また、日本アメリカ史学会第19回年次大会(9月18日)において「黒人自由闘争におけるパン・アフリカニズム」と題する口頭報告、同志社大学都市共生研究センター公開講演会(12月3日)において「21世紀のパン・アフリカニズム」と題する口頭報告をした、これらの報告では、黒人の自決権を検討する際に重要となるパン・アフリカニズムの歴史的展開や現在での状況について検討した。その後、これらの機会で得られた議論やコメントを参考に論考をまとめ、『上智アジア学』に査読つき単著論文 "Pan-Africanism in the 21st century: The End of a Single Narrative and the Potential of the Black Lives Matter Movement" を上梓した。 本研究期間全体においては、著書2件(単著1、共著1)、査読つき単著論文3件(英語2、日本語1)、口頭発表3件の成果があった。全体を通して、黒人たちの国境を超えた自決権獲得のための運動と、その際に重要となるパン・アフリカニズムに関する研究を深化できたことが大きな成果である。 新型コロナウイルスの流行により、現地調査にいけない時期が長引いたため、国際連盟における黒人と自治権をめぐる動きに関しては、十分に研究を進めることができなかった。しかしその一方で、研究期間2年目のはじめにブラック・ライヴズ・マター運動が大きく展開したことにより、社会的・学術的要請から21世紀におけるパン・アフリカニズムについて検討する機会が得られ、パン・アフリカニズムの現代的意義を検討する成果につながった。
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