研究課題/領域番号 |
19K01517
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
柴山 太 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (50308772)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 西側陣営の同盟ネットワーク / マーシャル・プラン / 反マーシャル・プラン闘争 / NATO / 日米安全保障条約 / アンザス条約 |
研究実績の概要 |
コロナに始まり、コロナに終わった感のある2021年度であったが、なんとか米国での7ヵ月間(2021年8月31日~2022年3月24日)の「西側陣営の拡大・進化1947‐1953年」に関する執筆・調査を行うことができた。ペンシルバニア大学(University of Pennsylvania)のビジティング・リサーチ・フェローの立場で、研究対象の第1章にあたる、1947年3月における英国による大陸西欧勢力圏づくりとしての英仏同盟形成(いわゆるダンケルク条約)、第2章にあたる1947年3~4月のモスクワ外相会談とソ連による米国国内政治への働きかけ、そして第3章にあたる、1947年6月のマーシャル・プラン、とりわけ同プランと米軍による世界の潜在的な英米同盟対象国への経済・軍事支援リストとの関係について、執筆を進めることができた。またこれらに関連した米軍内部の史料について、ナショナル・アーカイブII(カレッジパーク、メリーランド州)において、史料調査を行うことができ、1947年夏における、同プラン発表直後における、米軍参謀たちによる、当面、対ソ戦争なしという分析文書を発見することができた。この発見によって、米国政府・軍部は、ソ連が1947年9月に反マーシャル・プラン闘争を開始するまで、ソ連が世界戦争を開始する危険はないと判断していたことがわかった。これによって、英米間ではもちろん、米軍部内でも、緊急用の対ソ連戦争計画を立案し始めたのが、同闘争開始以降であったことが特定できた。まだまだ1948年初めの最初の緊急戦争計画誕生までの経緯は明白ではないし、ましてこの計画立案プロセスでの英国・カナダの関与も明白ではないが、かなり詳細がわかってきた。これは大きな進歩と言い得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
なんといっても、コロナによるアーカイブ閉鎖の影響は大きい。ナショナル・アーカイブIIに行けたと言っても、あれほどの事前チェックと検査報告を行わねばならず、また次の感染の波が来ると、すぐに閉鎖という展開であった。さらに、開いているわずかな期間も、多くの研究者との「席の取り合い」であり、それをめぐって席確保競争が行われる有様であった。運良く、そこそこの文書を発見したものの、まだまだ見たい史料だらけだったが、本務校が定める研究期間があるため、2022年3月末には帰らざるを得なかった。残念至極である。 書く方は、アーカイブ以外の史料にもとづいて、かなり進んでいる。また書く経緯のなかで、ペンシルバニア大学の諸教授、とりわけF・ディキンソン教授の指導によって、多くの疑問が解決しており、感謝に絶えない。さらにワシントンDC在住の先生方とも交流し、いろいろな問題点・疑問点について、意味ある助言を得ることができた。それなりの進捗状況とすべきであろうか。 とはいえ、まだまだ原稿の完成度は低いとするしかなく、まだ論文の形で世間に問うほどの密度はないとすべきか。さらなる努力が必要と思われる。ただしこの研究の成果とも間接的に関わると言い得るひとつの論文を、論文集の一論文として再来年度に出版する話が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これからもコロナとの関係で、アーカイブでの史料調査が大きく影響を受ける展開とならざるを得ないであろう。これを補うために、史料館が注文に応じてコピーしてくれるものを購入するという形で、利用できる史料を増やしていくことを考えている。その観点から、英国ナショナル・アーカイブとのやり取りを、極東書店等のエージェントを通じて、行うことを考えている。 同時に、とにかくできることは一生懸命に行うという観点から、どんどんアーカイブ史料以外の印刷史料(本や論文のなかのそれら)を徹底的に読み、分析し、そして原稿の形で書いていくという方向でやっていきたい。 また研究が進むなかで、同盟関係の強化・進化の過程で、同盟共同体がどのように形成されていくのかについて、思想・イデオロギー的そして人脈的な分析を行うべきとの意向を持つようになった。とはいえ、これについては、まったく手探りであり、また、あるべきアプローチもわからない。昨年、米国で出版された冷戦思想史の研究がヒントになったが、果たして、そのアプローチが有効かすらわからない状況である。とりわけこの研究は、米国と西欧諸国との間での冷戦思想史を念頭に置いているが、日本との関係をまったく無視している。言語的な限界なのかもしれないが。とはいえ、西側軍事同盟ネットワークを考える時には、洋の東西を越えた同盟共同体を念頭に置かなければ、その研究は限定的と言わざるを得ない。どこまでやれるか、まったく自信がないが、これができないと、研究の深遠さが付いてこないのではと危惧している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年8月末から2022年3月末まで米国ワシントン近郊で研究滞在を行ったが、その際、この研究プロジェクトに必要な文献・史料集の購入に関して、関西学院大学で研究している状況とは異なり、必要な検収などのチェックプロセスを行う環境ができにくく、思うように購入が進まなかった。そのため、翌年度2022年度にこれらの購入を回すことにしたので、未使用額が発生した。
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