研究課題/領域番号 |
19K01517
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
柴山 太 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (50308772)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 西側同盟ネットワーク / 日米安全保障条約 / ANZUS条約 / 英米同盟関係 / 1951年 / 第3次世界大戦 / 英連邦防衛 |
研究実績の概要 |
2023年度の研究実績のハイライトは、2023年9月14日に、防衛省防衛研究所主催の「戦争史研究国際フォーラム」(Zoom方式)で発表した、「西側陣営全体にとっての1951年の極東での西側同盟ネットワークづくりと新日本の戦略的意義」と題したプレゼンテーションと、同プレゼンテーション内容を強化した、同研究国際フォーラム紀要用の原稿作成である。この原稿(全69頁)は、2023年12月末に防衛省防衛研究所に提出し、2024年度中に出版される予定である。 この研究は、1951年における極東での第1次西側同盟ネットワークづくりの内容について、英米日そして豪州・NZの軍事・外交史料に基づき、同年8~9月に締結された、米比相互防衛条約、ANZUS条約そして日米安全保障条約には、どのような軍事的つながりがあったのかを明らかにした。最も重要な発見は、西側同盟ネットワークを主導する英米加のなかで、とりわけ英米が、これらの米国が関与する3条約体制について、積極的な関与を行い、3条約を巧みに関連させ、大英帝国・英連邦全体の安全保障を確保していたことを実証できたことである。すなわち英国は、一方で、日本の将来脅威を恐れる豪州とNZをなだめるための米国関与を図り、米海軍が豪州・NZを日本と中国そしてソ連の脅威から守ることを、米国から約束として取り付け、他方で、英国は豪州とNZの地上兵力を大英帝国の中東防衛に派遣するように働きかけ、米国の承認を得ていた。その次に重要なことは、英米両政府・軍部間の議論によれば、第3次世界大戦が勃発した場合、米国は日本が同盟総力戦上のパートナーとして活躍することを期待しており、同大戦では、日米英が中心となって戦争を遂行すると考えていた(当時、フランスとイタリアそして西ドイツ地域は、大戦開始後すぐにソ連地上軍に席巻されると想定されていた)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1951年の米比同盟、ANZUS条約および日米同盟の関連性を軍事・外交両面において実証的に分析できたことは、本プロジェクトとしては、良き展開であったと思われる。しかし、この研究の後に、極東での西側同盟ネットワークにおける、第2次同盟網づくりの波との関係を調べることが、極東での西側同盟ネットワークを理解するうえで不可欠ではないか、と考えるようになった。具体的には、1953年10月1日に調印された米韓相互防衛条約と1954年12月2日に調印された米華相互防衛条約の軍事的性格の理解、とりわけすでに出来上がった米比同盟、ANZUS条約そして日米安全保障条約という同盟ネットワークが出来上がっているなかで、新しい2つの同盟は、どのような役割を期待されていたのか、という解明が必要と思えてきた。つまり、できるかどうかはともかく、プロジェクト全体を考える時に、すこしではあるが、研究フォーカスを拡大しないと、極東での西側同盟ネットワークの全体像を描き切れないのではないか、という懸念が浮上してきたのである。かくして、できる範囲で、米韓同盟と米華同盟を分析する方向を、付け加えたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在は、極東での西側同盟ネットワークづくりの第2波とも言い得る米韓同盟づくりと米華同盟づくりに関連する研究書や外交・軍事史料集集めを始めている。また、研究内容については、国際日本文化研究センターの研究プロジェクトに関連させて、できる範囲で報告したいと思っている。あと1年度しかないことを考えると、やや過大という感はぬぐえないが、それでも、これまで研究されたことがない、同盟ネットワークの軍事的構造を歴史的に明らかにすることができる、というワクワク感を禁じ得ない。
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次年度使用額が生じた理由 |
一方において、研究の遅れがあったことは認めねばならない。研究論文を提出するほどにはなったものの、全体としてのANZUS条約研究が圧倒的に進んだとは言い難い。他方で、新しい研究を追加しないと、極東での西側同盟ネットワークの全体構造を解明することができないとのあせりもあり、その追加分に必要な史料集めにバタバタしていることも否定しがたい。これらの理由により、次年度使用額が生じてしまった。うまくかつ効率的に次年度を使いたい。研究を開始した時点では、1951年の極東の3つの軍事同盟関係である米比相互防衛条約、ANZUS条約そして日米安全保障条約と比べて、1953年の米韓相互防衛条約と1954年の米華相互防衛条約の条約内容とその背景にある戦略・軍事構想に大きな違いがないと考えていたが、研究を進める中で、それは間違いではないかと思うようになった。具体的には、極東における米国との諸防衛条約には、隠れたハイエラルキー的システム構造があり、日米安保条約を中心(世界戦争では英米日を中心として世界戦争遂行)とし、ANZUS条約を「便利屋」=極東方面と中東方面のつなぎ役とし、米比、米韓そして米華各防衛条約は第3列=前線基地あつかいの条約群であると思えた。これを確認するために、時間が必要になったため、次年度の研究継続をお願いしたい。
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