研究課題/領域番号 |
19K01533
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
吉留 公太 神奈川大学, 経営学部, 教授 (00444125)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 国際関係論 / 外交史・国際政治史 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、冷戦終結期の秩序変動を分析するという本研究の当初目的に沿って、ドイツ統一が冷戦終結に及ぼした影響と北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が冷戦後の秩序再編に及ぼした影響を検討した。冷戦研究会(2022年9月、12月)でソ連解体とドイツ統一に関する報告のコメンテーターを務め、立教アメリカ研究所研究会(2022年12月)で上述の論点についての研究状況を報告して参加した研究者の批評を仰いだ。また、2022年2月に勃発したウクライナ戦争の展開と相まって、NATO東方拡大の歴史的な影響に関する一般社会の注目も集まったことからマス・メディアの取材依頼にも応じた。 主な刊行物としては、ポーランドのNATO加盟の背景にあった情報機関の対米協力の実態を描いた著書について詳細な解説を書いた(ジョン・ポンフレット『鉄のカーテンをこじあけろ』染田屋茂訳、吉留公太解説、朝日新聞出版社、2023年)。またNATOに関する概説書にドイツ統一交渉の経緯を整理する項目を執筆した(吉留公太「ドイツ統一とNATO拡大」および「NATO 東方不拡大の約束はあったのか」、広瀬佳一編『NATO(北大西洋条約機構)を知るための 71 章』(明石書店、 2023 年)。さらにドイツ統一交渉のうち、NATO東方不拡大に関する発言がなされた1990年2月上旬の米ソ・独ソ交渉に関する研究動向を再検討する研究論文を書いた(吉留公太「ドイツ統一交渉に関する通説的解釈の再検討」、『立教アメリカン・スタディーズ』、2023年上旬発行予定、入稿済)。この論文では、西ドイツのゲンシャー外相が対ソ配慮の一環としてNATO不拡大を検討していたという通説を相対化し、アメリカのベーカー国務長官らも対ソ配慮の一環として「2+4」枠組みによる国際交渉枠組みとNATO不拡大を検討していたことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の開始後、新型コロナ感染症の蔓延防止のため海外での史資料収集を制限せざるを得ない状況がしばらく続いたため、2022年度は文献収集と研究動向の分析に軸足を置いて研究活動を行った。2022年度の具体的な成果は上掲の「研究実績の概要」にてまとめた通りである。 ウクライナ戦争の勃発によって冷戦終結やNATO東方拡大の経緯についての関心が高まったため、海外でも日本でもこれらの問題に関する文献出版や言論活動が活発に行われた。本研究はこうした論壇状況の把握に努めつつも、歴史的な経緯を分析するという立脚点を維持して1980年代後半から1990年代の国際動向の分析を継続した。 こうした研究活動によって以下の三つの課題を明確にすることができた。一つ目は、勝敗区分と東西融和という冷戦終結の持っていた二面的な性格が1970年代から1980年の冷戦の展開とどのように連関していたのかを議論することである。二つ目は、ドイツ統一交渉とほぼ同時に生起したペルシャ湾岸危機が冷戦終結に及ぼした影響を分析することである。三つ目は、1990年代前半の段階でのNATO東方拡大に関する検討の実態を明らかにすることである。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に整理した三つの課題のうち、一つ目である冷戦終結の性格とそれ以前動向との連関については、これまでに検討しえた論点をまとめるような論文を執筆することで冷戦史研究に貢献したい。二つ目の課題については、研究対象とする地域が従来のヨーロッパではなく中東と異なることから、ひとまず現状の研究動向を精査して論点を整理する作業を続けてゆく。三つ目の課題については、新型コロナ感染症にともなう渡航制限などがなくなったことから海外での史資料調査を行うことが可能になっている。そこで、欧米諸国の史資料を収集することで、NATO東方拡大に関するアメリカやNATO主要国の政策決定過程の実像を検討してみる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症にともなう蔓延防止措置などのため、学会や研究会が遠隔化されたり海外渡航に制約がかかったりしたため、当初の予定よりも旅費等の支出額が少なくなった。今後の使用計画としては、本報告書の「8.今後の研究の推進方策」に記した内容に沿って、海外での史資料収集や文献購入などの経費に充てることを予定している。
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