本研究の最終年度においては、新型コロナウィルスの感染症の拡大によって妨げられてきた海外での史料調査を再開することができた。また、前年までに引き続き冷戦終結期の米欧関係に関する文献収拾と読解を進めるとともに研究成果の文章化も行った。 最終年度の海外史料調査は英国国立公文文書館にて行った。同館にて1980年代後半から1990年代前半にかけての欧州諸国間関係と米欧関係を分析する手がかりとなる史料を収拾した。当時は冷戦終結とその後の秩序構築の過程の最中にあったため検討すべき国際問題は多岐に渡る。今回はこうした論点のうち、当時の英国政府内および米欧諸国間で活発に議論されていた東欧民主化後の旧東ヨーロッパ地域の安全保障問題を検討することとした。具体的には、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大と旧ユーゴスラヴィア紛争に関するNATOの関与についての史料の収拾と読解に努めた。文献読解に関しては、史料調査と連動して旧東ヨーロッパ地域の安全保障問題の論点整理に務めた。さらに、冷戦終結をもたらした歴史的な経緯を把握するために1970年代末から1980年代にかけての冷戦と米ソ関係についての論点整理も行った。 これらの史料収集と読解作業の成果の一端は、体制転換期のポーランド情報機関の動向を軸として同国のNATO加盟問題を扱った翻訳書(ジョン・ポンフレット著『鉄のカーテンをこじあけろ』朝日新聞出版社、2023年)の解説文、1980年代を「新冷戦」ととらえる歴史認識の問題点を指摘した学術論文(「冷戦史研究における『新冷戦』論の問題点『国際経営論集』第66号、2023年)などにまとめた。
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