研究実績の概要 |
2021年度は,2020年度に引き続き次の2点を行った。(1)社会的選好の理論研究および実験研究に関する文献調査をすると同時に, 実験データを詳細に再検討した。特に, (2)で構築した社会的選好のモデルの理論予測をもとに導いた仮説の検討を行った。(2)社会的選好に関する理論研究を行った。特に, 不平等回避の陰伏的線形効用モデルに関する理論研究を行った。 2020年度では社会的選好の研究でよく考察される3つの理論モデルを考え, 社会的選好の選好推定のための実験パートで得られたデータとどれが最もよく適合するかを検討した。これによると, 検討したモデルの中では, Fehr and Schmidt (1999, QJE)が考察した不平等回避モデル(FSモデル)が最もよくデータと適合することがわかった。しかし, データを詳細に検討したところ, 多くの被験者にとって, FSモデルとは両立しない傾向があることもわかった。それは, FSモデルでは不平等回避の態度が直面する所得分布とは独立に定まることに対して, 多くの被験者は直面する所得分布(推定のために用いられる所得分布)が異なれば推定される不平等回避度が異なるという観察である。そして, 不平等回避についてのこの意味での大域的な態度は個人ごとに様々ありそうであるとわかった。そこで, 2021年度は, この大域的な不平等回避の個人差を許容するようにFSモデルの2つの拡張を行った。そして, これら拡張FSモデルが実験データとどれくらい整合的かを検討した。その結果, 拡張の1つである不平等回避についての陰伏的線形効用モデルは概ねデータと整合的であるとわかった。 FSモデルの2つの拡張, つまり, 不平等回避についての陰伏的線形効用モデルと不平等回避の線形効用モデルについての理論的考察をまとめたものは国民経済雑誌に出版予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度は, 社会的選好の理論研究および実験研究に関する文献調査をすると同時に, これまでの結果をまとめて論文とし, 適切な学術誌への投稿を目的とする。 また, 令和3年度に検討できなかった事項である, 実験実施についての変更について検討する。具体的に, 当初計画していた大学での実験実施から別の大学での実験実施を検討することに加え, 追加実験についてはオンライン実験についても視野に入れ, その実施について経験者に相談の上検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験設計が遅れてしまったため, その実施ができなかった。それに伴い実験実施で見込まれていた謝金などの予算を使わなかった。この使用に関しては, 実施できなかった追加実験を可能な限り行う予定である。そして, 万が一実施ができなかった場合は, 当該プロジェクトの延長を可能であれば申請するつもりだが, それも可能でない場合は予算を返納するつもりである。
|