研究課題/領域番号 |
19K01549
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大津 敬介 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (50514527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動学的一般均衡モデル / 金融危機 / 景気循環 |
研究実績の概要 |
本研究は、金融危機後に不況が長期化するメカニズムを、動学的一般均衡モデルを用いて定量的に分析することが目的である。具体的には、以下の二つのメカニズムに注目する。一つ目は、金融危機が経済の成長トレンドに与える影響である。二つ目は、金融危機が企業の金融機関からの借り入れに与える影響である。このような不況の長期化に関する定量的な研究は蓄積が浅いため、本研究による学術的・政策的な貢献が期待できる。
2020年度の実績は以下のようにまとめられる。 第一のプロジェクトに関して、景気循環会計の枠組みに知的資本の蓄積を組み入れることにより、生産効率性の変動を短期的な要素と中長期的な要素に分解した。これにより、G7の景気変動の要因を、労働市場の歪み・投資市場の歪み・政府支出による歪み・短期的な生産効率性の歪み・中長期的な生産効率性の歪みに分解することができた。定量分析により、知的資本の蓄積を阻害する中長期的な生産効率性の悪化は、世界金融危機時のG7における景気停滞の重要な要因となっていることが分かった。このことは、金融摩擦が研究開発投資の減退を通じて不況を長期化させるという先行研究と整合的である。 第二のプロジェクトに関して、企業が金融危機発生後に借入制約が緩和されるであろうという期待が実現しなかったという事象を、①金融危機が発生したときに借入制約が一定期間だけ引き締められる、②引き締めの緩和が予想されたときに予想に反して引き締めが継続される、という2段階に分けて定量分析を定式化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一のプロジェクトに関しては、ワーキングペーパーの発表に向けて草稿を書き上げた。海外研究協力者であるMartin Micheli博士とTorsten Schmit博士(RWI Essen)がモデルの部分、研究代表者が定量分析の部分を執筆した。また、2021年度中の学会発表への応募を行った。したがって、概ね予定通りに進んでいるといえる。 一方で第二のプロジェクトに関しては、予定していた英国ケント大学への出張が不可能となったため、当初の予定通り定量分析のための打ち合わせを行うことができなかった。その結果、定量分析の進行にやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
第一のプロジェクトに関しては、学会報告を行い、フィードバックをもとにワーキングペーパーを完成させる。 第二のプロジェクトに関しては、コロナ禍のために延期していたイギリス出張による共同研究者との打ち合わせを通じて、定式化した定量分析を行う。また、専門的なフィードバックを得るために、2021年度中にワークショップを開催して研究報告を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に予定していた共同研究者との打ち合わせのためのイギリス出張が新型コロナウィルスの感染拡大の影響で中止となり、請求した旅費がキャンセルとなったため。次年度使用額は中止となった出張を2021年度中に行うために使用する予定である。
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