研究課題/領域番号 |
19K01551
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
下川 哲矢 東京理科大学, 経営学部ビジネスエコノミクス学科, 教授 (30366447)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経経済学 / 統計的パターン認識 / Rational inattention / 意思決定 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1.Rational inattentionモデルにおける認知的妥当性の実証的検証を基に、2.情報の取捨選択行動を加味した意思決定モデルを構築し、3.その均衡モデルにおけるインプリケーションを明らかにすることである。 昨年度は、小規模な予備実験を繰り返し、この過程において、(1)被験者ごとに個人差が大きいこと、(2)情報収集行動・認知に関するコスト関数が、Rational inattentionモデルにおいて通常仮定されるような、相互情報量に関する線形関数では不適切であること等を確認し、Rational inattentionをベースとしたモデルの修正に取り組んできた。 本年度は、コロナ禍により、生体情報の収集を伴う実験の実施が難しくなったことから、当初予定されていなかったオンラインで可能な実験を継続的に行った。実験の主眼は、上記(a)(b)の改良が、モデルの実証的精度に与える影響を、正確に評価することである。具体的には、よりシグナルを明確にし、相互情報量の増加を被験者に分かりやすくするために、外生的に新規情報を与える形の実験とし、様々な状況(Case、Context)に対する選択行動に関するデータを収集した。学生被験者108名による3種類の実験と、学生被験者46名による2種類の実験を行っている。これらの検討・修正により、Rational inattentionをベースとし、既存の研究で報告されているRational inattentionモデルのいくつかの欠点を回避し、さらに実証的行動分析における精度の観点からも満足が得られるような、モデルが得られたと考えている。またコロナ感染に配慮しつつ、小規模ながら生体情報の取得を伴う実験も実施し、30サンプルほど取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍により生体情報の収集を伴う実験が今年度本格的に実施できなかった。このため、上記のように、モデルの精緻化を行い、当初予定していなかった実験を行う時間が得られた半面、当初予定していたいくつかの投資実験が十分にはできていない。本年度は、感染対策に十分に配慮しつつ、急ぎこれらの実験データを蓄積し、併せて成果の投稿・発表を行う。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、本年度までの検討結果から得られた、修正されたRational inattentionモデルを用いて、当初の計画通り、生体情報を伴う実証実験のデータ蓄積を加速し、並行して人工市場分析によるRational inattentionの市場均衡に与える意義を明確化する予定である。実証実験では、連続型投資意思決定課題における生体情報のmulti-modal計測を行う。被験者の習熟度の違いの影響や、市場環境との関係にも注目する予定である。 これらの実験における最終的な検討課題は、(1) Rational inattentionモデルや、そこで使われる新規情報に対する反応係数が、人々の情報獲得処理行動を適切に表すか、(2)相互情報量が人々の情報獲得処理行動に対応するか、といった問題に結論を得ることであり、(3)また、これまで修正に取り組んできた我々のRational inattentionモデルが、既存モデルよりも明確に優れていることを実証的に明らかにすることである。 これらの実証実験と並行して、修正されたRational inattentionを用いたエージェントベースシミュレーションによって、人工市場における均衡が、どのような統計的な性質を持つのか、更にそれは現実の市場価格が持つ統計的性質と、整合的か否かを検討する。これも当初の予定通り実施する。また、これらの研究成果は順次論文誌に投稿するとともに、夏から秋にかけて2件の国際学会で発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況で述べたように、本年までは主として、Rational inattentionをベースとしたモデルの実証的パフォーマンスの改善に取り組み、当初予定になかった実験とモデルの改良を繰り返した。また、昨年度はコロナ禍もあり、生体情報の収集を伴う実験が実施不可能であり、オンラインベースで可能な実験の実施に留まった。これらの影響により、当初予定していた実験の実施および発表活動が遅れているのが主たる要因である。
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