研究課題/領域番号 |
19K01555
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
白井 洸志 関西学院大学, 経済学部, 准教授 (70609685)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 意思決定理論 / 限定合理性 / 顕示選好理論 / 逐次探索モデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は逐次探索的な選択行動について分析することである。逐次探索的な選択行動とは選択肢がリスト状に並んでいるような場面での意思決定問題であり、予約サイトで表示されたホテルのリストを上から順番に検討しながら宿泊先を決定するような場面がそれに該当する。 逐次探索的な選択行動を行うにあたって、消費者はしばしば提示されるリスト自体を選択することが出来る。上述の予約サイトの例に即して言えば、特定の価格帯のホテルを主要駅からの距離順にソートして、その上でホテルを吟味・選択するといった作業は自然なものと考えられる。では、消費者はどのようなリストを生成するのが合理的だろうか?直観的には、「より好ましい選択肢がより前方に来るようなリスト」を選択することが自然と思われる。特に、そのようなリストでは「より短い探索でより良い選択肢を選べる」ように思われる。後者の性質は探索自体に心理的コストがかかることを踏まえれば、リストの好ましさの定義として良さそうである。しかし、前者のようなリストが真に後者を示唆するか否かは消費者がリスト上でどのようにして最終的な選択を行うのかに依存する。 そこで本研究では、「より好ましい選択肢がより前方に来るようなリスト」=>「より短い探索でより良い選択肢を選べる」がいかなる選択プロセスの下で保証されるかを明らかにした。結論としては、消費者が探索が深まるにつれて閾値が減少するようなSatisficing model(詳細は2019年度の研究実績概要を参照)に従えばこの性質が保証され、逆に上の性質を成立せしめるような意思決定プロセスは必ず閾値が減少的なSatisficing modelで記述できることが明らかになった。リスト自体の選択に関する理論は研究代表者が知る限り殆ど知られておらず、ここで得られた結果はその基礎になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事前の研究計画段階で、本研究課題を大きく二つのプロジェクトに分けて進めることを想定していた。一つ目は所与のリスト上で消費者がどのような探索・選択行動をしているのか検証するテスト理論を構築することであり、二つ目はリスト自体を内生的に選択するケースにおける理論の構築であった。 それに照らした場合、2019年度の段階で一つ目の研究課題について一定の結果が得られており、2020年度中に外部での研究報告も行いつつ論文の作成が進んでいる。また、二つ目の研究課題についても「研究実績の概要」欄で述べたとおり、当該分野で十分な意義を持つと考えられる結果を得るに至っている。さらに、2019年度中に顕示選好理論の観点から詳細に分析した「閾値が減少的なSatisficing model」について、2020年度に得られた結果がその妥当性を担保するという有機的なつながりを得られている。 サバティカル先の研究機関の閉鎖や学会の中止・延期といった影響もあり、得られた命題群を論文としてまとめる作業に若干の遅れがあるが、上記のうち2020年度内に得られた結果については2021年度中に学術誌に投稿する。以上も含めて、プロジェクト全体としては概ね順調に知見を積み重ねていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
プロジェクト全体は概ね順調に推移していると判断されるので、原則として当初の研究計画に沿って進めることが適当と考える。 ただし、補助事業期間の半分に差し掛かりつつある段階でもあり、2023年度内に主要な結果を全て公刊することを念頭に、そこから逆算して執筆・発表・投稿のプロセスを進めていく。既に得られた命題群についても、noteとして早期に公刊すべきものと実証分析への応用も見据えて発展させていくものに分け、前者については2021年度前半のうちに学術誌に投稿する。実証分析については2021年度以降の主要な課題であるが、研究代表者が別プロジェクトで構築した方法論が本研究においても有益であると考えられるので、それを突破口に研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
セミナー・学会報告あるいは研究打ち合わせが新型コロナウイルス感染症の影響もあって、中止またはオンライン開催となったことが主たる要因である。元来、2021年度においても学会報告やセミナー報告のための旅費としての活用を見込んでおり、2021年度についても既にオンラインでの開催が決まっている学会もあるため引き続き繰越が発生することは想定される。次年度に対面での学会やセミナーが再開されれば、主にその際の旅費として支出する。ただし、研究計画についてはオンラインであっても遅滞なく遂行できるよう最大限努める。
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