研究実績の概要 |
補助事業最終年度にあたる令和5年度は、昨年度開始したプロジェクトを進展させたほか、すでに論文として取り纏めたプロジェクトについて、学術雑誌からの修正要求に応えるべく論文の改訂に取り組んだ。 飯星博邦氏、新谷元嗣氏、上田晃三氏との共同研究として、日本銀行による量的質的金融緩和(QQE)およびイールドカーブ・コントロール(YCC)の効果を分析するために短期金利のみならず長期金利にもゼロ金利制約を考慮した非線形動学的一般均衡モデルを推定するプロジェクトを進めた。現在は、実際のデータにフィットするようにモデルを改良したうえで、モデルの解法および推定手法を検討しているところである。 将来の期待効用や期待収益をより多く割り引くといった行動経済学的期待を導入した非線形ニュー・ケインジアン・モデルを名目金利の非負制約も含めて推定した論文「Estimating a Behavioral New Keynesian Model with the Zero Lower Bound」(飯星博邦氏、新谷元嗣氏、上田晃三氏との共著)は、Journal of Money, Credit and Bankingからの修正要求に対応し、無事掲載が決定した。 研究期間全体を通じて、本研究には大きく分けて二つの学術的貢献があった。(1)名目金利の非負制約を含む非線形モデルを用いた複数の実証分析から、同制約を含まない線形モデルを用いた場合と比べて、推定されたモデルの含意がどのように変化するのかを定量的に明らかにした。(2)標準的な二国間モデルに確率的ボラティリティを導入したうえで非線形推定を行った結果、カバーなし金利平価からの乖離を表すリスク・シェアリング・ショックが為替レート変動の主たる要因である一方、ボラティリティ・ショックもそれなりに寄与していることが分かった。
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