研究課題/領域番号 |
19K01569
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
近郷 匠 福岡大学, 経済学部, 教授 (70579664)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 公理的特徴付け / 提携型ゲーム / 余剰均等分配値 / 第1価格オークション |
研究実績の概要 |
本研究課題では、一定の形で表現された状況を評価する方法、また、そういった評価に基づいて、その状況から生じている経済的余剰などを関係者が納得する形で適切に分配する方法を理論的に考察している。中心となる手法は提携型ゲーム理論であるものの、考察対象はそれにとどまらない。関連する幅広い経済モデルを考察し、複合的な視点から研究を進める。令和2年度に取り組み、かつこの期間内に一定の成果を得た研究としては、提携型ゲーム理論とオークション理論の双方に関する研究がある。その内容は以下である。報告者が以前に提携型ゲーム理論の研究で定式化した、関係者を公平に扱う一つの公理(Equal effect of players’ nullification)を吟味し、オークションにも適用できる弱い形として新たに定式化した。そしてその公理を中心として、現実にも広く活用されている第1価格オークションに新たな特徴付けを与えた。さらに、この特徴付けで用いた公理の集合と完全に対応する公理の組が、提携型ゲーム理論という違ったモデルにおいては余剰均等分配値を特徴付けることも同時に示した。この結果は、異なるモデルにおけるそれぞれのルールの類似性を公理という共通の視点から比較することで明らかにしている。つまり、もともと全くの別物である第1価格オークションというルールと、余剰均等分配値という(別の状況での)ルールが、その本質的特徴からは対応することを示している。なお、この議論の視点自体も新しいものである。今回の研究以外の様々な研究でも同様の視点に基づいた研究の可能性が開かれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項(研究実績の概要)で述べた研究に関しては、国際的な査読雑誌であるReview of Economic Designに投稿し、編集者及び匿名の査読者の審査を経て、既に公刊されている。前項でその内容を説明したように、この研究の核となる公平性に関する公理は、報告者自身が過去の研究で定式化したものに基づいている。言い換えると、この研究は報告者がすでに深く理解している概念から出発し、近年の関連分野における研究成果を踏まえる形でそれをより発展させるという形で進めることができた。この点が、比較的速やかに成果としてまとめることが可能となった要因と考えられる。したがって、今後もそういった方向で研究を進めることで、着実に成果を積み上げることが可能になると予想される。 なお実際に、この結果以外にも、同じような方法で令和2年度に考察を進めた研究はある。しかしながら、令和2年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により様々な影響もあった。まず、授業のオンライン化などの研究以外の業務負担が激増した。また、関連分野の研究者と対面での研究報告、議論の機会が激減した。こういった影響は大きく、上記の研究以外にこの期間内に一定の成果としてまとまったものはない。それらについて今後研究を発展させ、成果としてまとめる。とくに、そのうち一つについては、次項(今後の研究推進方策)で述べるように令和3年度中の国際会議でのオンライン報告が既に受理されていることも合わせて報告する。 以上のように、期間内に一定の成果を得て、さらに今後の研究の方向性も一定の範囲で明確であるため、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の研究計画に基づき、また、社会状況にも対応しながら着実に研究を進めていく。より具体的には、提携型ゲームの解の公平性にかんする自身の以前の研究成果などを中心として、それらを近年の関連文献の成果に基づいて吟味し、新たな結果としてまとめていく。また、それだけでなく、それらで得られている公平性などの概念を、関連する他の問題に援用するという形でも、新たな研究が考えられる。 ただし、令和2年度同様に、今年度も新型コロナウイルスの感染状況がどのように推移するかは不透明である。この報告書を作成している時点で、The 20th Annual SAET Conference(昨年度から1年延期)および、16th European Meeting on Game Theory (SING16)での研究報告(オンライン)が受理されている。こういった報告の機会を活用し、すでに一定の範囲で進んでいる研究を完成に近づける。なお、昨年度の経験に照らすと、オンラインでの研究議論は、対面での研究議論を完全に代替できるとは考えていない。相手と既に議論を十分に深めているトピックに関しては、オンラインでも十分に生産的な議論ができるものの、そうではない研究については、オンラインでの議論では不十分と考えている。したがって、難しい社会状況ではあるものの、関連分野の研究者と対面で議論する機会を一定量確保する。感染状況を注視し、オンラインと対面の双方を最大限に活用することで、関連分野の研究者と自身の研究を議論する機会を定期的に確保し、安定的に研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、研究費の使用計画に大幅な変更が生じた。本研究では当初の計画に基づき、令和2年度予算の8割を旅費としていた。それらは国内外の学会、国際会議、研究会に参加し、自身の研究を報告、また関連分野の研究者の最新の研究成果を把握することに使用される予定であった。しかしながら、参加が決まっていた、参加を予定していた学会、国際会議、研究会のほとんどすべてが中止、延期、あるいはオンライン開催となり、旅費負担の機会・必要が激減した。また、令和2年度の大半の期間で所属機関から不要不急の出張の自粛が要請されていた。その結果として、研究打ち合わせのための出張も必要最低限とせざるを得なかった。なお、学会参加費などの負担の機会も減ったことで、旅費以外の費目についても使用機会が減っている。以下は一部、前項とも重複するが、こういった状況を踏まえた令和3年度の使用計画としては、新型コロナウイルスの状況を注視しつつ、リスクの小さなタイミングで、当初予定していた出張を行い、研究を着実に進めていく。こういった状況では、特に出張に関して急なスケジュールの変更の可能性が大幅に増える。したがって、例えば航空券は正規料金で手配せざるを得ず、出張単価が上がることが避けられない。令和2年度残額を活用して、そういった事態に対応する。
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