研究課題/領域番号 |
19K01574
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高見 典和 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60708494)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | クープマンス / 現代史 / 数理経済学 / シカゴ学派経済学 |
研究実績の概要 |
クープマンスを始めとする20世紀半ばに数理経済学を多様な方向に発展させた経済学者の歴史的文脈を考察した。20世紀後半では,特にアメリカでの経済学の変化が現代の経済学への影響として非常に重要であるが,同時に,政治的に保守的な傾向をもつ経済学者のへの影響力が高まった。このため,この経済学の変化と,アメリカ社会全体の政治的傾向の変化との関連を後づけることが重要だと考えられる。 本年度は特に,戦後のアメリカの保守思想の展開を論じた先行研究を調査した。例えば,George NashのThe Conservative Intellectual Movement in America Since 1945では,William F. Buckley Jr. が編集者を務めたNational Review誌を中心として,以下の3つの異なる思想が一定の協調関係を持つようになったことが示された。すなわち,その3つの思想のうち第一は,文化的な伝統主義であり,キリスト教信仰や人種融合への反発などを主張するものである。第二は,リバタリアニズムであり,ミーゼスやハイエクのようなヨーロッパから移住した思想家に端を発するものである。第三は,反社会主義であり,かつて社会主義の運動家であった思想家が現実の社会主義社会を経験したのちに転向し,強硬な反社会主義者になったものたちによって展開された。以上のような多層的な保守思想が,その後,アメリカの保守主義の主流派を形成していくことになると論じられている。 また,Kim Phillips-FeinのInvisible Handsでは,同様の人物にも注目しながら,実業界と保守主義との関連が強調された。保守思想家の活動が実業家の支援により,展開されていたことや,バリー・ゴールドウォーターやロナルド・レーガンのような右派政治家と実業界との接点が強調されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
20世紀半ばから後半にかけての数理経済学の展開に伴う歴史的文脈を考察する上で,様々な分野の先行研究を調査する必要があったが,上記の文献を含め多くの研究を調査することができたから。上記以外には,Robert M. CollinsのMore: The Politics of Economic Growth in Postwar America,Angus BurginのThe Great Persuasion: Reinventing Free Markets since the Depression,Steven M. TelesのThe Rise of the Conservative Legal Movementなどを読み,幅広く20世紀後半のアメリカでの保守思想の展開を後付けた。これらの知見を活かしつつ,アメリカ社会の思想的変化と経済学の保守化との接点を考察していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
以上の調査に基づき,より直接に経済学者と保守思想家との接点を考察していきたい。例えば,保守思想家が編集した雑誌に経済学者の寄稿があったかといった調査が可能である。William F. Buckley Jr.が編集したNational ReviewやHenry Hazlittらが編集したThe Freemanなどが調査対象となりうる。これらは学術雑誌ではなく,保守思想を展開するために刊行されていた雑誌なので,これらの雑誌で経済学者の関わりがあったかどうかは興味深いテーマとなりうる。また,これらの保守思想家と経済学者の間の私信のやりとりがあったかについても調査する必要がある。保守政治家と経済学者との接点も重要な研究課題である。ミルトン・フリードマンがバリー・ゴールドウォーターを支援したのは有名だが,どのような文脈でこの協力関係が展開したのかを後づけることは重要である。以上のように,今後はより直接に経済学者と戦後アメリカ保守主義の展開との接点を考察していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外への資料調査や学会参加が不可能であったため。
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